隣の男に味方する弟


 彼女(42)は都内の自動車販売会社に勤めている。実家は北陸の小さな町。1年前、その町で雑貨店を営んでいた父が脳梗塞で倒れた。枕元には、母(67)から知らせを聞いた彼女、大阪に嫁いでいた妹(35)、隣町で工務店を営む弟(39)が集まったが、意識が回復しないまま旅立った。

 四十九日に母と子が集まり遺産分割が話し合われた。自宅は母が相続し、預貯金は均等分割ということで話がまとまった。だが、自宅から5キロ離れた山すそにある更地については話がつかなかった。

 「母さんが継げば?」

 彼女はこう提案した。

 「地元のおれが今のうちに継いでもいいだろ?」

 弟は土地を欲しがった。

 「土地は草ぼうぼうで、今はどうなっているのか・・・」

 こう言う母によると、土地は10年放置され、隣地との境界もさくがあったが、どうなっているかは不明という。

 現地を訪れた彼女らは、隣地に家が立っているのを知った。境界の目印になっていたさくが見当たらない。付近には、抜かれた境界標が2本転がっていた。母の記憶では、境界線にあたる場所が隣家の庭の下敷きになっていた。

 彼女らは隣家に要請した。

 「境界を元に戻してもらえませんか?」

 家から出てきた男(57)はけげんそうだった。

 「うちは何も知らんよ」

 その後、調停でも話し合われたが、解決しなかった。

 「訴えるしかないわ。あんたも協力するのよ」

 彼女は、弟に同調を求めた。境界確定の訴えは共有者全員で訴える必要があったのだ。

 「おれはもめたくない」

 自分への帰属を主張する弟の消極的な態度は不可解だった。彼女は弟をせっついたが、態度は変わらなかった。

 その後、隣地の主人は貸金業者で、弟は数百万円を借りていたことが判明した。

 「それとこれは別問題。お父さんの土地は守るべきよ」

 彼女は、境界問題の早急な解決を望んでいた。

 
 
身内も被告として訴訟提起

 隣地との境界に争いがあれば、裁判所にその確定を求めることができる。隣接する土地の一方か双方が数人の共有になっている場合、共有者全員に判決の効力を及ぼすため、全員が共同して訴えるか、訴えられなければならない。彼女の場合、共有者である相続人全員が原告になる必要がある。

 しかし、共有者の中に同調しない者がいる場合、隣地の所有者とともに同調しない者も、被告として訴えを提起すればよい。というのは、境界は裁判所が公益的見地から裁量的に定めるので、関係当事者が当事者として訴訟に関与していれば、判決の効力を及ぼしても問題はないからだ。

 彼女は、隣地の所有者と訴訟に同調しない弟の2人を被告として、境界確定の訴えを提起することになるだろう。

 
  筆者:菱田貴子、籔本亜里