養女ではなかったの?


 彼女(27)は、A男とC女(53)の養女で、レジャー施設で契約社員として働いている。生みの親のことは聞かされていたが、5歳の時に養女になって以来、会っていないので記憶は定かでない。過去22年間、波風立つことなく過ごしてきたが、先頃、A男が亡くなったことを契機に紛争が発生した。

 A男には本妻のX女(58)がいて、2人の間にはB男(28)という息子もいる。A男の父は土地と株持ちの資産家だった。その父の遺産を相続したので、生活費は地代と株の売買でまかなっていた。

 A男とX女は、B男が生まれてまもなく、うまくいかなくなった。同じ頃、C女がA男と男女の仲になった。

 「私をバカにしないで!」

 X女は、A男とC女の関係に耐えられず、B男を連れて家を出た。

 その後、A男はC女と同居して、事実上の夫婦生活を始めた。子が生まれなかったので、彼女を養女にもらいうけたのである。X女に無断で養親となる縁組届を出して、受理された。

 17年前、縁組を知ったX女はA男に抗議した。

 「私に無断で養女にするとはどういうこと?B男はどうなるのよ!」

 X女は、養女のことより息子のことが気がかりだった。

 「そのうちきちんとするから、もう少し待ってくれ」

 A男はこう言って、X女を抑えたらしい。

 結局、A男は何もしなかった。4ヶ月前、心筋梗塞で急死した。

 A男の遺産は数億円に上ると算定されている。

 「遺産は私とB男のものよ」

 X女は彼女と母のC女にこう主張した。

 「娘はA男の養女だから当然、相続人です」

 母は彼女を擁護した。

 「私は縁組に同意していないから、縁組自体が無効よ」

 X女も引かない構えだ。

 彼女は自分の立場に戸惑っている。

 
 
事情あれば養子縁組は有効

 未成年者を養子にするには、養親の夫婦共同縁組が原則だ。本件では夫婦の一方が他方に無断で縁組の届け出をしたので、効力が問われる。

 夫婦の一方の意思に基づかない縁組の届け出があっても、@他方と相手方との間に単独でも親子関係を成立させる意思があるAそうした親子関係を成立させることが、一方の配偶者の利益を害するものでなく、養子の福祉を害するおそれがない―など特段の事情があれば、縁組の意思を欠く当事者の縁組のみを無効とし、縁組の意思がある他方の配偶者の縁組は有効に成立すると考える。

 生みの親もA男も、A男と彼女の間に単独でも縁組を成立させる意思があり、彼女の福祉にも反していなかったので、A男と彼女の間での養子縁組は有効と言える。

 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里