彼(55)は、Aという運送会社を経営している。
重要なのは、倉庫業者との付き合いだ。自前で倉庫を抱えるとコストがかかる。荷物を予定通りに運べない時に、適当な保管場所を提供してくれるのは、付き合いのある倉庫業者だ。
15年前、A社は倉庫業のB社とD社に数百万円を出資した。B社はC氏(76)が社長を務める合資会社。C氏はB社の無限責任社員(会社債務には無限に責任を負う出資者)、D社の有限責任社員(会社債務には出資した限度で責任を負う出資者)だった。
財務基盤の強化を求めていた2社と、倉庫業者との提携を深めようとしていた彼の思惑が一致したのだった。
B社の定款は、無限責任社員が業務を執行し、有限責任社員は業務を執行できないと規定していた。C氏がB社の唯一の業務執行社員だった。
A社とB社は取引は過去15年、円滑だった。だが、4ヶ月前、C氏が、急性心筋梗塞で倒れて入院。自分の意思を肉声で伝えられなくなった。
「C社長の具合は?」
3ヶ月前、彼はB社に様子を尋ねた。C氏の長男(49)が応答した。
「相変わらずです。でもご心配なく。社長に代わって私が業務を執行しますので」
「業務を執行って?あなたはB社の・・・」
「社長から『支配人』に選任されたんです」
長男が支配人になるという話に、彼は驚いた。
「D社さんは了解しているんですか?」
「大丈夫です。私がB社を運営しますから」
長男は質問には答えず、C氏の代わりだと主張した。
B社の定款には支配人の選任方法について規定はない。彼は納得できなかったが、取引の遅滞を避けたかったので、その場はB社との取引予定を伝えるだけにとどめた。
だが、長男の業務執行はずさんでトラブルが発生した。苦情を言うと、「A社との取引を打ち切る」と言いだした。彼は頭を抱えている。
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