彼女(37)は6年前、知人の紹介で彼(40)と知り合った。彼女は、彼の日焼けした顔や頭の回転が速そうな口ぶりに引きつけら、彼も彼女の魅力にひかれた。2年後、2人は結婚式を挙げ、同居を始めた。もっとも、婚姻届は出さず、内縁関係を選んだ。
「『夫婦』という形は好きじゃないんだ。君だって自由の方がいい」
彼は婚姻届を出さない訳をそう語った。
「私は結婚式まで挙げたんだからと思うけど、あなたがそう言うならいいわ」
彼女は彼と一緒にいられるなら、こだわらないようにしようと考えた。
だが、2人だけの生活は5カ月で終わり、彼女は彼の実家で彼の両親たちと暮らすことになった。実家は運送業を営み、引っ越し専門会社や宅配便との競争で忙しく、手伝うよう求められたからだ。
「この料金計算、間違っているじゃない。こっちも値引きしすぎよ。これじゃやっていけないでしょ!」
彼女は慣れない仕事を懸命にしたが、しゅうとめはやかましく小言を言った。彼はその様子を見ても見ぬふりで、ほかの家族も同じだった。
彼女と彼の家族との折り合いは悪くなるばかりだった。
「仕事が遅い。家事も大してできないんじゃ、困るわ」
しゅうとめは公然と彼女を非難するようになり、孤立感を深めた彼女は、過労とストレスで体調を崩し、発熱が続き、うつの兆候が出てきた。
彼女の苦境を知った彼女の両親は、彼女を実家に戻すことにした。このままでは身がもたないと懸念したからだ。実家に戻っても症状はよくならず、彼女は病院で療養生活をすることになった。
彼やその家族が、彼女の見舞いに来たのは入院直後の一度だけだった。そのうち、こんな封書が届いた。
「当方に残された荷物を至急引き取られたい」
内縁の解消を宣言していた。彼女は、彼との時間は何だったのかと悔いている。
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