義父が84歳で亡くなった。胃がんと診断され、認知症の症状もあって亡くなるまでの1年間、介護を任された長男の嫁である彼女(54)の苦労は並大抵ではなかった。
夫(56)には、隣県に嫁いだ姉(61)と、遠方に住む弟(54)がいた。2人とも結婚して子どももいた。
義母は3年前に交通事故で亡くなり、その際は、法定相続分どおり、義母の預貯金や株式などを、義父が2分の1、3人の兄弟が6分の1ずつの割合で相続した。
義父は住み慣れた自宅で暮らしたい気持ちが強く、身の回りのことも最低限はこなした。近くに住む彼女の家に身を寄せることも考えたが、結局は自宅で一人暮らしをすることにした。彼女が毎日、出向いて炊事や掃除を手伝った。ほかの兄弟は正月に顔を出す程度だった。
異変が起きたのは、1年前だ。義父は食が細くなり、寝込みがちになった。病院で診察を受けると、末期の胃がんだった。
入院して2週間後には、義父に認知症の症状が見られるようになった。夫や彼女のことも分からなくなり、「家に帰せ」と頻繁に暴れた。主治医によると、入院で生活環境が変化したことが原因だろうとのことだった。
居づらくなり、病院を転々とした。入院費用は、元気な頃に義父から預かっていた預金で賄ったが、彼女は心身ともに疲れ果てた。その間、義姉も義弟も、1カ月に1度、見舞いに来ただけだった。
その義父が亡くなった。夫が喪主になって、葬儀を慌ただしく終えた。
義父の遺産は自宅の不動産と預金だったが、預金は入院と葬儀の費用でなくなった。
義姉が相続の話を切り出した。
「自宅を売却して、代金を3等分しよう」
彼女は釈然としなかった。義父が一人暮らしの時も入院中も、彼女だけが面倒を見てきたからだ。何もしていない義姉と義弟と同じなのかと。
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