亡夫の焼骨の帰属は


 県庁勤めをしていた彼女(48)は20年前、同じ職場の男性と結婚した。結婚3年目に娘(17)が生まれた。

 夫の父が7年目に他界、ひとり残された母(75)を心配して、彼女ら3人は夫の実家(甲家)で母と同居を始めた。義姉(51)と義弟(46)もいたが、長男である夫が、母の世話を買って出ていた。

 しかし、夫は6年前、知人とのゴルフに出かけたところ、交通事故に遭って、急逝してしまった。

 喪主を務めた彼女は、葬儀で涙ながらにあいさつした。夫の焼骨は、A寺にある「甲家之墓」と刻した墓に納められた。夫が生前、祭祀財産として承継し、甲家祖先の祭祀を主宰していたものだ。

 夫の死後も、彼女は義母と同居し続けた。新たに仏壇を買って、祖先の位牌とともに彼の位牌を納めて礼拝した。「甲家之墓」の施主名義は彼女に変更された。夫の一周忌、三回忌、盆などの法事も彼女が施主を務めた。親族からも異論はなかった。

 ところが、2年ほど前から彼女と義母との折り合いが、次第に悪くなっていった。足腰が弱ったうえ、自分で用が足せないといういら立ちが、仕事で不在がちな彼女に向けられた。

 「お母さんをぞんざいに扱わないで」

 母の不満を聞いた義姉弟たちも、彼女に文句を言い始めた。

 居たたまれなくなった彼女は1年前、義母に姻族関係の終了を告げて、甲家を出た。その後、彼女はA寺に施主の交代を申し出た。施主は義弟が引き継いだ。

 彼女は甲家を出る時、夫の位牌を持ち出した。転居した住まいに、新しい仏壇を購入して納めた。今では、A寺にある夫の焼骨も引き取って、夫の墓を新たに建て、改葬したいと計画している。しかし、義姉弟は焼骨の引き取りに強く反対した。

 「甲家の人間ではない者には、焼骨は渡せない」

 彼女は苦渋に満ちた顔だ。

 
 
祭祀を主宰する配偶者に

 夫の死亡後、生存する配偶者が夫の祭祀を主宰することは、婚姻夫婦が家族関係を形成する一つの原初形態としている日本の法体系や慣習から判断して、法的にも承認されてしかるべきである。

 その場合、亡夫の遺体や遺骨が祭祀財産に属すべきものであることは、条理上、当然である。配偶者の遺体や遺骨の所有権は、通常の遺産相続によるのではなく、祭祀を主宰する生存配偶者に原始的に帰属し、次いでその子に承継されるべきものだろう。

 彼女は夫の死に伴って、祭祀を主宰する者として、焼骨の所有権を取得していた。焼骨が一度甲家祖先伝来の墓に納められたとはいえ、所有権が移転するわけではない。彼女は姻族関係終了の意思表示をした後も、焼骨を引き取って改葬できる。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里