強制配転の末に解雇


 彼女(37)は15年前、都内の玩具メーカーの企業グループに就職した。製造の兄会社と販売の弟会社で構成され、いずれも社長はA(50)。両社の役員構成もほぼ同じ。本店所在地も共通で、経営は実質的に一体化していた。

 彼女は兄会社に入社し、経理部に配属された。業務の範囲は弟会社の経理も含まれていた。賃金も両社から支給された。1年前までは兄会社から30万円、弟会社から8万円をもらっていた。

 彼女は2年前、都内にマンションをローンで購入した。静岡で暮らす病弱の母には月数万円の仕送りもしていた。

 問題の発端は約1年前。彼女に、福島工場の生産管理システム構築のためという名目で、転勤命令が出たことだ。

 「なぜ、私なんですか?」

 彼女は、購入したばかりのマンションや母の世話が気掛かりになり、転勤を渋った。

 「君しかいないんだよ」

 Aに聞く耳はなかった。

 これには伏線があった。彼女は、Aからセクハラまがいの行為を受けていたが拒否していたうえ、Aが経理部門のリストラを強行しようとすることにも反対していた。2人の関係が悪化していたのだ。

 転勤で、彼女は弟会社から8万円の支給がなくなった。

 「労働条件の変更だ。減った分は残業で稼げばいい」

 「急に8万円も減るなんて、困ります!」

 抵抗したが、無駄だった。

 結局、彼女は福島へ転勤した。着任当初は机もなく、システム構築には相当の人手がかかるのに経理社員も若手2人だけ。がくぜんとせざるを得なかった。

 彼女は減額分を補おうと、工場で残業もしたが、職場環境の変化についていけず、2カ月後からは会社を休んだ。うつ病を発症したのだ。

 「工場長あてに診断書を添えて長期休暇届を出し、治療経過も報告した。Aにも、本社への早期の職場復帰を希望していることを伝えた。

 ところが、Aは1カ月半後、彼女を解雇した。

 
 
同意なき労働条件変更は無効

 実質的には経営が一体の兄弟会社で、彼女は両社の経理をしていた。両社との雇用契約から、双方から月額賃金を受けてきた。経営が一体化しているので、弟会社の従業員としての地位は、配転後も残る。配転自体は有効でも、賃金などの労働条件が変更され、労働者の不利益になる場合は労働者の同意が必要だ。

 彼女が自らの不利益になる賃金の変更に任意に応じたとは認め難い。転勤後に止まった月8万円は、請求できる。

 彼女は上司の許可を得ず会社を休み、職場放棄をしたこともない。うつ病の発症も、配転が契機の一つと思われる。

 彼女は診断書を提出し、治療経過も報告している。それなのに、休業から1カ月半で解雇するのは、合理性に欠ける。彼女の従業員としての地位は保全できるだろう。

 
  筆者:安田洋子、籔本亜里