「婚姻届」の効力は?


 彼女(49)は25年前、彼(53)とお見合い結婚した。彼は証券会社に勤めるエリート社員との触れ込み。彼女にも結婚願望があったので、話はすんなりとまとまった。

 結婚生活の最初の10年は、順調だった。長男(22)と長女(20)にも恵まれた。だがその後、同居を始めたしゅうとめの存在が2人の関係に、ひびを入れだした。

 「うちの子は悪くないわ」

 しゅうとめは夫婦げんかに介入し、彼の味方をした。

 「お母さんを何とかして」

 彼女は、母のいい子になる彼の様子に腹を立てていた。

 「母さんは悪くない。お前が問題だ」

 この言葉に彼女は堪忍袋の緒が切れて、娘を連れて飛び出した。息子も一緒にと思ったが、母と彼に感づかれ、残すことになった。

 その5年後、2人は協議離婚し、息子は夫方に引き取られた。しゅうとめは、仕事に忙しい彼に代わり、息子の世話をしたが、1年もたたずに急性心不全で亡くなった。

 「彼女と復縁しなさい」

 彼の親族が、子の世話で困っているのを見かねて提案した。彼も「家政婦代わりだ」とばかりに、婚姻届は出さず、彼女と同居を再開した。

 同居が始まると、以前のように彼は彼女と子のために生活費を負担した。彼女も生計をやり繰りして、子の教育費を工面した。近所の人も離婚したとは知らず、夫婦であることを疑わなかった。

 7年前、彼女は彼に内緒で婚姻届を出した。子の進学に差し障りがあるのを懸念したからだ。その後、彼は戸籍謄本を見て届け出の事実を知ったが、何も言わなかった。

 だが2年前、彼は浮気相手の家に転がり込んで、再び別居が始まった。1年前の娘の結婚式には彼女とともに出席し、父親らしく振る舞った。

 「お前ともお別れだ。生活費も、もう出せない」

 式の翌日、彼はこう切り出した。彼女は婚姻届の存在を告げたが、彼は「そんなものは無効」と言い張っている。

 
 
追認の事実は重く、有効に

 彼は「婚姻届が無断で出されたので、婚姻は無効だ」と主張している。

 事実上の夫婦の一方が、婚姻届を出す意思を欠いているのに、他方が勝手に婚姻届を出した場合には、原則として婚姻は無効となる。

 しかし、彼は婚姻届が出されていることを知った後も、以前と同様の同居生活を続けてきた。彼女と子の生活費も負担し、夫婦の実質的な生活関係は、近所の人も認めている。このような場合には、彼は無効行為を追認していたとみなされる。そして、届け出前から事実上の夫婦関係が継続している場合には、追認により届け出の時点にさかのぼって婚姻は有効となると考えられる。

 婚姻の無効を主張する彼の根拠は弱く、認められないだろう。

 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里