母が代理で保証契約


 この春、彼女(23)は公立高校の英語教員になった。念願が実現して喜ぶ一方で、実家が不動産を巡るトラブルに巻き込まれ、いま一つ晴れた気分になれない。

 問題の不動産とは父(52)が所有していた土地である。10年前、母(50)と彼女を含む3人の子に贈与され、4分の1ずつ、共有持ち分を取得したのだった。

 「母さんとうまくやっていきたいし、お前たちにも財産を譲っておきたい」

 そんな父の思いとは裏腹に不幸が直撃した。父の勤務先の大手スーパーの業績が悪化し、父は子会社に異動になったのだ。それをきっかけに、虚栄心の強い母は、父を軽蔑するようになり、両親は8年前に離婚してしまった。

 5年前、母は医師をしているというA(44)と飲み屋で知り合った。懇意になるのに時間はかからなかった。その母にAはこうささやいた。

 「実は近々、自分のクリニックを開業するんです。資金の一部を知人の貸金業者Bから借りる予定です。保証人になってくれませんか」

 「あなたのためなら、何でもするわ」

 Aにぞっこんだった母は、要請をあっさり聞き入れた。

 Aの借金、900万円の連帯保証人になっただけではない。当時未成年だった彼女ら3人の子とともに贈与された土地も、親権者として代理して、結局、土地のすべてを担保に提供し、抵当権を設定したのである。関係書類まで偽造して、登記してしまった。

 しかし、クリニックは1年たっても2年たっても開業されなかった。Aは私立病院に勤務していたが、1年前に退職し、音信不通になった。4ヶ月前からは、ついに借金の返済が滞り始めた。

 「Aさんから返済がないので、担保の土地を競売にかけさせてもらいまっせ」

 Bが母に迫ってきた。

 「どうしたらいいの」

 彼女に母から連絡が入った。彼女は父からもらった土地を失いたくないのである。

 
 
「利益相反行為」であり無効

 母は、Aの借金の連帯保証人になっただけでなく、彼女ら3人の子と共有する土地の全部について抵当権を設定し、登記までしてしまった。自らは共有者の一員として、その一方では、未成年だった子の親権者としてである。

 債権者が抵当権を実行し、競売代金を借金返済に充てれば、子の持ち分から得られる代金の分については、母の返済責任が軽くなってしまう。子が不利益を受けることが、結果的に、母の利益になるわけである。

 このケースでは、母が子の代理人として抵当権を設定している。これは子の利益に反する利益相反行為に該当するので、無効である。

 子は業者に抵当権設定契約の無効を主張して、抵当権設定登記の抹消を、請求することができるだろう。

 
  筆者:隈部翔、籔本亜里