育休も雇用も拒まれた


 彼女(32)は東京都内でサラリーマンの夫(34)と暮らしている。6年前、フランスに留学した経験をいかして欧州との取引が多い貿易会社に勤め始めた。仕事は横浜支店長の秘書。雇用期間は6月1日から翌年5月30日までとするが、5月1日までにどちらかから異議がない限り自動的に更新される契約だった。

 彼女は得意のフランス語を使って、そつなく仕事をこなした。1年後、契約は自動更新され、その後も特に手続きをすることもなく更新が続いた。その間、雇用契約には期間の定めがあると改めて確認されたこともなかった。

 昨年春、それまで仕えていた支店長が本社に異動になり、新しい支店長のA氏(50)が赴任した。伸び悩んでいた支店の業績を立て直すための人事だとうわさされた。

 「業務全体を見直す。秘書業務も例外ではない」

 赴任早々、A氏は言った。

 彼女は、なにかがすぐ変わるとも思えなかったので、なにも言わなかった。

 秋ごろ、彼女は念願の第1子出産のため、産前産後休業を取った。引き続いて10ヶ月の育児休業の取得を申請したところ、A氏は拒否した。

 「君は1年契約の有期雇用だから、育児休業は認められない。それに、専業の秘書は不要と考えている。5月末で君との契約も切れるし」

 A氏は彼女との契約終了に言及し、彼女が育児休業を希望するなら特例として5月末まで制限なく有給を取ることを認めると言った。

 彼女は提案を断った。自分は会社に貢献してきたと思っていたし、これまで契約が更新されてきた経緯からみても、契約終了に納得できなかったからだ。夫や母親と相談して子どもの世話を分担してもらい、有給も利用しながら出社し続けた。

 3月下旬、A氏は彼女に対して5月末をもって雇用契約を終了すると通告してきた。支店の再建のためだという。彼女は、理不尽な思いをぬぐいきれないでいる。

 
 
解雇の適法性と同様に判断

 1年の有期雇用契約であることを彼女も会社側も契約時に了解していた。しかし、手続きもなく5回更新され、契約に期間の定めがあるとの確認もされなかったことをみれば、雇用の継続を彼女が期待するのは合理的である。契約終了の適法性は解雇の場合と同様に判断されるべきだ。

 このケースは、整理解雇に相当する。だが、その必要性は特に高くはなく、契約終了を回避するための努力があったともみえない。従って雇用契約の終了は無効と考える。

 一方、育児休業は有期雇用でも@同一事業主に引き続き1年以上雇用されA子が1歳に達する日を超えても雇用される見込みがあれば、請求できる。

 彼女の雇用は実質的に期間の定めがないからAも満たす。休業拒否は違法とされ、慰謝料を請求できよう。

 
  筆者:安田洋子、籔本亜里