彼(49)は1年ほど前、父を亡くしたときに兄(53)と裁判で争う羽目になった。相続人は彼を含む兄弟姉妹の4人。父の遺産を確定しようと財産を整理していたところ、ある土地の所有権が誰にあるかが問題になったのだ。
その土地はもともと、大工をしていた父が、資材置き場として友人から借りていたものだ。ところが父が亡くなる直前、その友人から兄の名義に所有権の移転登記が行われていたので、彼は驚いた。彼は、その土地を父の友人から買うと約束していたのだ。
「どうして兄貴が、あの土地の名義人になっているんだ。あそこは、おれが買うはずだったんだ」
その土地は立地がよかったので、彼は老後に暮らす場所にするつもりだった。
「あの土地は、おやじが友だちから買ったんだよ。そして、亡くなる直前におれが贈与を受けたのさ」
兄は、自分の権利の正当性を主張した。
裁判で彼は、父の友人から買う約束をしていたので土地の所有権は自分にあると主張した。これに対し兄は、その土地は父が友人から買って自分に贈与したと反論した。裁判所は、父の友人から父への売買を認めた。父が兄に贈与したことまでは認めなかったが、結局、彼自身にも所有権はないと判断した。
その後、兄弟姉妹で遺産分割を協議したが、兄は問題の土地の所有権が自分にあると主張した。しかし、ほかの3人は納得できなかった。
「裁判では、兄さんの土地だとまでは判断されていないじゃないか」
彼は、その土地が父の遺産に含まれると主張した。
「裁判で負けたんだから、おまえに権利を主張する資格はないだろ」
兄は、彼を協議に加わらせたくなかった。
「おれ1人のものではないかもしれないが、おれだって相続人の1人だ」
兄に好き放題にさせるわけにはいかないと彼は思った。 |