彼女(18)は先頃、父を亡くした。58歳だった。父といっても、一緒に住んでいたわけではない。母(47)と父は法律上の婚姻関係にはなかったからだ。彼女はいわゆる非嫡出子であり、弟(16)も同じ父の非嫡出子だ。
母と父の出会いは20年以上前にさかのぼる。母は当時、父の実家が経営する小さな旅館に勤めていた。勤め始めて2年目に、父が旅館を継ぐため実家に戻ってきた。
「よく働きますね。ご苦労さま」
父が母に初めてかけた言葉だ。旅館の玄関や庭先を、1人で丹念に掃除していた時だった。母は温和な性格で、仕事はきちんとこなした。
そんな母に、父は積極的なアプローチをかけた。
母は最初、それを拒んだ。父にはすでに妻(53)がいたからだ。だが、母も内心では父を慕っていた。そして、父の子として彼女を生んだ。
妻は怒り、父の両親は旅館の評判を気にして、母を辞めさせた。
それでも、父と母の関係は切れなかった。父は性格のきつい妻とうまくいかず、母に安らぎを感じていた。母が旅館を辞めても、父は母に毎月生活費を渡し、彼女と弟を子として認知していた。
14年前、父の両親が相次いで亡くなり、父が旅館を継いだ。しかし、不況のさなかで経営不振が続いた。
1年前の冬、父は心筋梗塞で亡くなった。旅館の敷地と建物がのこされた。
その遺産分割が、父の妻と彼女の母との間で行われた。妻には子がない。相続人の彼女と弟を代理して、母が協議に応じた。
母は、妻の言うままに、敷地と建物全部を妻が取得することに合意した。
「なぜ遠慮したの。お父さんとのことが引け目?」
「お父さんも納得していたんでしょ。権利は主張しようよ」
彼女と弟は、遺産分割の手続きをこのまま進めることに反対した。 |