1年半前、彼女(56)は家の新築を決心した。夫(60)の定年を機に、2人でくつろげる空間を持とうと思ったのだ。幸い、母親から相続した宅地があり、そこに建てることにした。2人とも和風が好みだったので、和室を基本とした設計を試みた。
建築はA社に依頼した。建築費は2200万円。雨が続いて完成は大幅に遅れ、1カ月前にようやく引き渡しを受けた。
ところが、入居してからいくつもの欠陥が明らかになった。納屋の床はコンクリートのはずだったのに、強度の乏しいモルタルが使われていた。しかも厚さが足りないため、亀裂が生じていた。最もひどかったのは、2階和室の床の中央が盛り上がり、障子やアルミサッシがスムーズに開閉できないことだった。
「ひどすぎるわ。和室にこだわっていたことを、ご存じでしょ!」
彼女は和室にA社の担当者を通し、床の傾きを示した。
「早くお渡ししようと急いだせいか……」
担当者は謝罪した。
「欠陥は、ほかにもたくさんあるわ。何とかしてよ」
「社長と相談します」
数日後、担当者から連絡があった。修繕費が150万円かかるが、その費用を建築費から差し引くという。
「そんなバカな!」
彼女は納得できず協議を続けたが、A社は修理が困難だと言い、そのうち訴訟も辞さないと言い始めた。
別の業者によると、欠陥のために家の価値は500万円は下がるという。彼女は、500万円を修繕に代わる損害金として建築費2200万円から控除し、残りの1700万円を支払うことで決着したいと提案した。
しかし、A社は拒否。修繕費150万円を引いた2050万円の支払いを主張した。
「500万円が払われるまで、代金の支払いは拒否よ」
彼女は、損害金と建築費の支払いの同時履行を主張した。譲るつもりは、ない。 |