カレの子にも慰謝料払うの?


レストランに勤めている彼女(47)は未婚だが、約10年間つきあってきた彼(48)がいる。食材会社の営業マンで、彼女が仕入れの窓口を担当した縁で知り合った。

 実は彼には、20年前に結婚した妻(45)と18歳の息子がいる。大手商社に勤めていたころに、見合いで結婚した。

 「妻とは不釣り合いだったんだ……」

 彼女と知り合ったころ、彼は妻のことをこう話した。

 夫婦が不仲になったきっかけは、12年前に彼が商社を辞めたことだった。上司の嫌がらせで意にそわない異動を命じられ反発した結果だった。

 「どうして辞めちゃうの! 生活はどうなるの!」

 妻は退職の理由も聞かずに、彼を一方的に責めた。

 商社を辞めた彼は会社を起こしたが、不況で失敗。ようやく見つけた再就職先が、今の食材会社だった。生活の安定は戻ったが、妻との関係は冷え切ったままだった。

 「妻は、大手商社マンという肩書と結婚したかっただけなのさ……」

 妻は彼に食事を作らない。休日は彼を避けるように外出し、たまに家にいる時も息子と示しあわせ、2人とも彼とはろくに口をきかなかった。

 そんな境遇に耳を傾けてくれる彼女に、彼はひかれていった。彼女も彼のきまじめさを受け入れた。
  4年前、彼女との関係が妻に知れた。

 「女遊びなんて最低ね。この子もかわいそうよ」

 妻は、激しく非難した。やきもちというより、プライドが傷つけられたことへの怒りであるように、彼は感じた。
  まもなく、彼は彼女のもとへ転がり込んだ。しかし別居後も、妻子への送金は続けた。商社時代に買った家を売り、代金を妻名義のマンションの購入に充てもした。
  3カ月前、妻から彼女に書面が届いた。慰謝料の請求で、妻と子にそれぞれ数百万円を支払えという。

  彼女は、すべての非が自分にあるとは思えないでいる。
 
 
「親を奪った」とはいえない

夫婦の一方と深い関係になった第三者は、自ら積極的に誘惑したか自然の愛情からそうなったかを問わず、さらには相手から積極的に迫られた結果であっても、夫婦のもう一方に対して慰謝料を支払わなければならない。

 だが、夫婦の間の未成年の子どもに対しては、相手が子どもに愛情を注ごうとするのを、ことさら邪魔するつもりで積極的に阻止したような場合以外は、慰謝料を支払う必要はない。

 たとえ愛人と暮らしている親であっても、やろうと思えば子どもに対して愛情を注ぎ、世話をやくことができるのだから、それをしなかったことを、愛人のせいにはできないからだ。

  従って、彼女は妻に対してだけ慰謝料を支払えばよく、子どもに支払う義務はない。
 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里