知らぬ間に敗訴判決

「弊社が、○月○日から○月○日まで立て替え払いした代金を、お支払いください」

 彼(50)は、信販会社から思いもよらない立て替え金の支払い催促を受けて驚いた。

もともとクレジットカードが嫌いで、使った覚えもない。あわてて調べてみると、妻(47)がインターネット通販などを利用して、衣服や家電製品、貴金属などを100万円以上、彼の名義で購入していたことがわかった。

 「なんで黙っていたんだ」

 「どうしてかしら・・・。よくわからないの」

 彼の問いかけに、妻はうまく答えられなかった。黙っていた以上、弁解の余地はなかった。だが、買い物をしなければ気が休まらない精神状態だったことも理解できた。夫との会話はほとんどなく、買い物で寂しさを紛らわせていたのかもしれない。

 妻の内証の買い物以上に彼が驚いたのは、いつの間にか信販会社から訴えられ、しかも敗訴していたという事実だった。妻が使った金が支払われなかったので、信販会社が彼に対して未払い金請求の訴訟を提起していたのだ。

訴訟が起こされれば、被告にその旨が知らされる。確かに、訴状と第1回口頭弁論の呼び出し状が彼あてに送付されてはいた。

ところが、それを受け取ったのは8歳の一人娘だった。そんな重要なものとは思わず、親に渡していなかったのだ。そのため、第1回口頭弁論に出席しなかった彼は、信販会社の請求を認めたものとして扱われ、敗訴判決を受ける羽目になっていた。

それだけではなかった。数日後に交付された判決正本は妻が受け取ったが、買い物が知られるのを恐れて、彼に伝えていなかったのだ。そのために彼は判決に対して控訴することもなく、敗訴判決がいつの間にか確定していた。

 「お前ら、いったい何なんだ。家族だろ・・・」

こう言いかけとき、彼は妻や娘に対する自分の至らなさに、気がついた。
 
 
8歳児に訴状渡しても無効

知らないうちに敗訴判決が確定しているが、再審の訴えを起こすことはできないか。

民事、刑事を問わず再審の訴えは難しい。同居の家族が訴状や判決を受け取っているときは本人が受け取ったものとみなされ、「自分は知らなかった」とは言えない。最初から隠すつもりで妻が受け取った場合でも、同じだ。

  ただし、このケースで訴状を受け取ったのは、8歳の娘である。小さな子だから、大事な書類を親に渡すのを忘れることもあるだろう。そんな子どもに手渡しても、訴状が有効に届けられたとはいえない。訴状の送達が有効でなければ、訴訟が適切に起こされたとはいえず、判決は妻が受け取ったとしても、その送達も有効とはならない。したがってこのケースに限れば、彼は再審の訴えができる。
 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里