養育費払い拒み退職

彼女(35)8年前、彼(38)と職場結婚した。彼の職場に異動したばかりの彼女に彼が一目ぼれし、半年間の交際で結婚。娘(6)と息子(4)が生まれた。

 ところが2年前、2人はあっけなく離婚した。原因は彼の浮気。職場の若い女性に手を出したことが彼女に知られた結果だった。

 離婚に際して、娘と息子の養育費が争いになった。当時の彼の年収は約500万円。彼女は子育てに支障がない職場に変わり、年収は約190万円に減った。子どもの将来を考え、彼女はできるだけ高い金額を求めたが、彼はあいまいな答えに終始した。

2人では話し合いにもならないので、裁判所に調停を求めたが、それでも決着がつかない。結局、裁判所が審判を下し、彼が子どもの養育費として1人当たり毎月3万円を支払うことで決着した。

 「子どもたちへの援助はしていくつもりだが、彼女に対する金銭の支払いは拒否する。給料に対する差し押さえなどの強制執行が行われたら、退職してでも抵抗する」

 審判の最中、彼はこう主張し、敵意をむき出しにした。

 審判の後も、彼は約束の養育費さえ払おうとしなかった。彼女は再三、支払いを催促したが、彼が応じなかったため、給与差し押さえの手続きをとって支払いを受けた。

 ところが、その5カ月後、養育費の支払いが再び止まった。彼が勤めを辞めてしまい、給与差し押さえの効力が失われてしまったのだ。転職先も決めないままの退職だった。

 「次の仕事も決めずになぜ勝手に辞めるの?養育費はどうするのよ!」

 「差し押さえられて給料がめちゃくちゃ減った。生活できないから辞めたのさ。強制的に払わされるのも嫌だったし・・・。失業して収入がなくなったんだから、養育費も免除されるべきだよな」

  あまりの無責任な態度に、彼女は怒りを抑えられないでいた。
 
 
支払い義務は免除されないが

 

彼は、現在収入がないので、養育費の支払いを免除されるべきだと主張する。しかし、収入がない原因は病気や会社の倒産などやむを得ない事情ではなく、強制執行で養育費を払わされるのが嫌で退職しただけのことにある。

そもそも彼は、父親として養育費を支払う義務があるのに自ら進んで払ったことは一度もなく、しかも強制執行を免れるために退職したのだから、現在収入を得ていないからといって養育費を免除するのは妥当ではないだろう。

退職しても、審判で決められた養育費の支払い義務がなくなるわけではなく、これを変更するには彼から調停や審判を申し立てなければならない。とはいえ現実には、彼が無職で財産もないとすると、養育費の支払いを受けることは困難だろう。
 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里