貸した土地に無断建物

 

彼女(55)は10年前、高校の同窓生のA(55)という男性に、実家の近くに所有する土地を貸した。父親から相続した土地だが、使うあてがなく、賃貸料が入るなら結構なことだと思ったからだ。賃貸期間は10年とした。

 Aはさっそく、そこにテニス練習場を設けて営業を始めた。地域の中高年の間でテニスが人気となっていたので、経営は十分成り立つという算段があったようだ。

 都心で暮らす彼女は父の死後、実家へ出向くことはほとんどなかったが、賃貸料はきちんと振り込まれていた。

 しかし、今年は賃貸期間が終了する年にあたるので、彼女はこの土地を返してもらうことに決めた。知人から介護施設を建てる土地を探しているとの話があり、自分たちが将来その施設を利用するにしても、土地を提供しておくのが有効だと思ったからだ。

 「期間満了なので、土地を返していただきたいのです」

 彼女はAに了解を求めた。

 「急に言われても……。経営も安定してきているのに」

 この10年の間に、テニス練習場の経営は、A個人から、Aと彼の息子が設立した会社に移し、土地の上には会社の事務所兼住宅も建てていた。

 「無断で建物まで……。練習場だけの約束でしたよね」

 久しぶりに現地を見た彼女は、変化に驚いた。

 「練習場の経営に事務所は必要ですよ」

 Aは、当然だといった顔つきをした。彼女は繰り返し返還を求めたが、Aはウンと言わなかった。

 数日後、Aから手紙が届いた。土地の賃借関係は一時使用のためではないし、テニスの練習場に必要な建物を建てることは使用目的に含まれている。期間は10年とあったが、契約内容からみて最低30年は使えるはずで、今は返還するつもりはないという。

 彼女のもくろみは壁にぶつかった。

 
 
借地借家法の適用が争点に

土地の貸借目的にはテニス練習場のための事務所の建築も含まれ、借地借家法の適用を受けて借地権の存続期間は30年だというのが、Aの主張のようだ。同法の適用を受けるには「建物の所有を目的とする」貸借でなければならない。それは借地を使う主な目的が、その土地に建物を建てて所有することにある場合を指し、建物を建てて所有しようとしても、それが従たる目的にすぎないときは、同法には当たらないと考える。

 このケースでは、主目的はテニス練習場として土地を利用することにあり、Aが当初から練習場経営に必要な事務所などの建築を計画していたとしても、それは従たる目的にすぎないと考えられる。従って借地借家法の適用はなく、彼女は期間満了をもって土地の返還を請求できる。

 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里