元夫名義の住宅ローン

 

彼女(40)と彼(41)は15年前に結婚した。中学生の息子(14)を抱え、彼女は通信会社に勤務。彼はCATV会社で営業をしている。

 1年半前、彼女の父が亡くなったのを機に、2人は彼女の母(70)と二世帯住宅を建てることにした。2人の賃貸マンションには母を引き取れるスペースはなく、母も独立した空間を希望したからだ。

 「あんたたちは、これから大変だろうから、先の短い私がそれなりに負担するよ」

 母は冗談まじりに、土地と建物の資金の3分の2を負担すると言った。

 「それは多すぎます。お母さんには、長生きしてもっと楽しんでもらわなきゃ」

 蓄えもないのに、彼は自分たちの負担割合を増やすと強がりを言った。

 結局、総額5500万円を、半分の2750万円ずつ負担した。母は現金で支払い、2人の分は彼女が貯金から750万円を出し、彼が2000万円のローンを組んだ。負担割合に応じ、土地と建物の持ち分登記をした。

 新居に移転後、彼女はますます忙しくなり、深夜の帰宅が多くなった。彼の方は、会社のリストラで、営業もやりつつ制作現場にもかかわるという変則勤務になった。

 「君も大変だろうけど、僕も大変だよ。制作現場は結構気を使うんだ」

 朝食時、彼女が忙しく身支度を調えている横で、彼はちょっと楽しそうに漏らした。

 実は彼は、制作現場で一緒になった新人キャスターと、深い関係にはまりこんでいたのだ。そのうち、休日のはずの日にも「ロケだ」と言って出かける彼の様子に、彼女が異変を感じたときは、すでに遅かった。

 3カ月前、彼は離婚を宣言し、家を出ていった。「仕方ないわ」とあきらめる彼女を見て、母も悲しんだ。

 彼女は、財産整理に着手しようとしている。

 
 
引き継ぐかどうか判断必要

離婚後も、彼女は今の住宅に実母と暮らし続けるだろうから、彼の持ち分を彼女に財産分与の形で引き継がせるのが、一つの処理法として考えられる。

 ローン付き住宅では、ローンも含めて彼女名義になる場合、住宅の時価からローンの残債を引いた残りが財産分与の対象となる。住宅は引き継いでも、ローンは彼が負担するなら、住宅の時価が財産分与の対象だ。その場合、将来支払いが止まるリスクもあるので注意したい。

 財産分与は、夫婦が協力して得た財産の額や社会的地位からみて、夫婦共有財産の清算として相当な額であれば贈与税は発生しない。ただ、現金と異なり、居住用不動産を譲渡して分与する場合には、譲渡所得税や不動産取得税が発生することがある。

 
  筆者:角田圭子、籔本亜里