他人が滞納した管理費

彼(40)は電機メーカーの課長を務める独身貴族。昨秋、リストラで社宅が廃止され、友人の紹介で中古マンションを購入することにした。

 「安いぜ。駅から近いし、便利だ」。友人が紹介したのは、2LDKの物件だった。

 「安いのにこしたことはない。古くてもいい」

 近い将来、結婚の予定もない彼には、特にこだわりはなかった。

 友人は物件を所有する雑貨販売会社と交渉し、さらに200万円を値引きさせた。

 数日後、彼は雑貨販売会社と売買契約を締結。その日のうちに所有権移転の登記手続きも済ませた。

 ところがこの雑貨販売会社は、マンションの管理費と特別修繕費を長いこと滞納していた。マンションの管理規約にはこう規定されていた。

 一、区分所有者は、敷地および共用部分などの管理に要する経費に充てるため、管理費をマンション管理組合に納入しなければならない。その額については、各区分所有者の共用部分の共有持ち分に応じて算出し、毎会計年度の収支予算案により総会の承認を受けるものとする。

 一、特別修繕費は、修繕積立金として積み立てる。

 一、管理費などの額、徴収方法などについては総会の決議を経なければならない。

 雑貨販売会社は、6年分の管理費など累計174万円を滞納していた。

 「滞納されている管理費などを払ってください」

 マンション管理組合の役員が、彼に催促した。

 「急に言われても、私が滞納したわけじゃないし、そんな昔の分まで……」

 「でも、支払い義務は新しい区分所有者にも引き継がれるんですよ」

 役員は、頑として支払いを求めた。彼は、予想外の追徴に頭を抱えている。

 
 
一部は時効消滅を主張可能

建物の区分所有に関する法律は、管理費などの支払い義務は新しい区分所有者に引き継がれるとする。

 一般的に債権の消滅時効は10年であるが、民法では169条以降で数種類の債権について短期消滅時効を定めている。本件の管理費などが「定期給付債権(家賃などのように、年またはそれより短い期間によって定めた金銭などの給付を目的とする債権)である場合、毎月の支払日から5年たつごとに消滅時効が完成すると考える。

 このケースでは、管理組合の請求権は管理規約の規定に基づき、区分所有者に対して発生する。管理費などの具体的な金額は総会の決議によって確定し、月ごとに支払われるから、その請求権は定期給付債権にあたるといえる。彼は、5年以上前の管理費などについては消滅時効を主張することができる。

 
  筆者:木村翔、籔本亜里