家主が滞納した地代は?

彼女(26)は大学時代の仲間2人と一緒に、2年前からコンピュータープログラムの制作をしている。資金があまりないので、事務所の家賃はできるだけ抑えたいと思っていたところ、月6万円で貸すという古い一軒家を見つけた。家主は、Aという初老の男性だった。

 「仕事場に利用しますが、いいですか」

 「結構ですよ。子供も独立し、妻も亡くなったので、私が住むには広すぎますから」

 話が決まると、彼女たちはさっそく入居した。毎月末に家賃を納め、特に問題なく家を借り続けていた。

 ところが最近になって、Bと名乗る人物から封書が届き、「速やかに退去せよ」と通告された。

 「Bって誰?」

 「家賃を払っているのに、どうして退去なの」

 彼女たちは突然の通告に動揺した。書面をよく読むと、Bは建物の敷地の所有者であり、Aが地代を半年滞納しているので、立ち退きを迫っていることが記されていた。

 事情を確認しようと、彼女はAと連絡を取ろうとしたが、電話ではなかなかつかまらなかった。彼女は、隣県に暮らすAの自宅を訪ねた。

 「私たち、土地のことはよく知らなかったので、ビックリしました」

 「迷惑をかけてすまないね。事情があって払えなくなって……」

 Aは、土地の賃貸借関係を消滅させようとしていた。

 「困ります。あの家が気に入っているし、仕事場としてもベストなんです」

 彼女はAから滞納した金額を聞き出し、仲間と相談して、とりあえず立て替え払いすることにした。しかし、Bは拒否した。

 「あの土地は、もっと有効に利用しようと考えているんでね」

 何とかならないか、彼女は思案に暮れている。

 
 
建物の賃借人にも利害関係

債務の支払いは第三者でもできるが、利害関係をもたない場合は債務者の意思に反して支払うことはできない。このケースでは、Aは地代を支払う意思がないので、彼女たちに利害関係がなければ代わって支払うことはできない。

 建物の賃借人である彼女たちと、敷地の賃貸人であるBとの間には直接の契約関係はないが、敷地の賃借権が消滅すると、彼女たちは建物から退去してBに土地を明け渡さなければならなくなる可能性があるため、彼女たちには、敷地の賃借権に利害関係があると考える。

 したがって、彼女たちは地代を支払うことで立ち退きを回避できる。ただ、債権者Bが地代を受け取るのを拒否することが明らかなので、管轄法務局に地代相当額を供託することになるだろう。

 
  筆者:木村翔、籔本亜里