貸した店が転貸された

彼女(56)は30年間営んできた理髪店を、2年前に閉じた。店を賃貸に出したところ、A(36)という男性を紹介された。彼は美容師で、別の町で美容院を経営していたが、新たに開店するための物件を探していた。

 「理髪店が美容院に生まれ変わるのも、新鮮かもね」

 彼女はAへの賃貸を承諾した。契約書には賃料のほか、賃貸期間は3年、建物の一部または全部につき賃借権の譲渡または転貸をした場合は、催告を必要とせず直ちに契約を解除できる、と記された。

 数週間後に美容院はオープン。周辺にライバルとなる店はなく、順調なスタートを切った。ところが、1年を過ぎたころから賃料の支払いが遅れ始め、月によっては契約金額に満たないときもあった。

 心配になった彼女はAに尋ねた。

 「すみません。遅れても必ず入金しますから」

 Aの返事に、彼女は少々の遅れは認めることにしたが、数カ月後に店をのぞいて驚いた。Aの姿はなく、見知らぬ女性美容師がいたからだ。

 「あなたは?」

 「Bと言います。Aさんから店を任されて……」

 業務委託を受けたという説明を一応は受け入れたが、その後もAの姿が見えないので、彼女は疑いを強くした。

 「転貸していない?」

 彼女はAに問いただした。

 「いいえ。業務委託しているだけです」

 その後、彼女は、BにAとの契約内容を尋ねた。Bが差し出した「業務委託」という書面には、確かにBに運営を委託すると書かれていたが、Bが毎月定額の運営費をAに支払うこと、光熱費はBが負担すること、委託保証金をAに支払うこと、店舗の賃貸借の更新料はBが30%を負担することが決められていた。

 「これって何か変」

 彼女は契約を解除できるか悩んでいた。

 
 
背信性があれば解約できる

賃貸借は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約関係なので、賃料不払いがあっても、軽微にとどまれば、直ちに解除はできない。無断転貸も同様であり、催告なしに解除できるという特約があっても、転貸に背信性がないと認めるに足りる特段の事情があれば、解除は難しい。

 このケースのAとBの契約は、形式的には業務委託であるが、委託ならば、AからBに委託料が支払われるべきだし、光熱費や保証金、更新料などはBがかなり負担しているので、実質的には転貸借と考えられる。

 問題は背信性の有無。Aが業務委託とすることで転貸借を偽装していたことの裏付けや、店舗の運営が事実上Bの主導で行われていた事情などがあれば、背信性が認められ、解除できよう。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里