彼女(42)は2年前、大手不動産会社が十数年前に開発した分譲地に立つ中古の一戸建てを、貯金を使って土地付きで買った。その家は奥まったところにあり、公道とは40メートルほどの通路でつながっていた。通路の幅は、広いところでも車2台がなんとかすれ違えるほどで、公道に接するところは3メートル程度しかなかった。
「この通路は、自由に通れるんですよね」
夫(44)は購入前に不動産会社の営業マンに確認した。
「もちろんです。分譲当初はうちの所有でしたが、数年前に地元の自治会に所有が移りました。最初に分譲地を買った方との間で通行地役権が設定されていまして、今回購入されるとそれが一緒に付きますから、ご安心ください」
営業マンのいう通行地役権とは、幅2.8メートル未満、積載量2.5トン以下の自動車による通行を目的とし、通路の幅いっぱいを対象としていた。
購入後は、特に不自由なく通路を利用してきた。ところが、3カ月前から、気になることが起きていた。通路の途中に10年前から住んでいる人が、自分の家の前に昼夜かまわず車をとめ続けるようになったのだ。そこに駐車されたままだと、残された道幅は3メートルほどしかない。
駐車をやめてもらおうと自治会に相談すると、その家には駐車スペースが一つあるものの、息子が新たに車を買ったので置く場所がないと言われたという。自治会は、通路上に駐車禁止の看板を設置してくれたが、車が動かされる気配はいっこうになかった。
「ずっと駐車するのは、やめてもらえませんか」
やむをえず、彼女は直接掛け合った。
「車1台くらい通れる幅はあるんだから、いいじゃないですか」
何が悪いと言わんばかりの返事に、彼女は不愉快な思いを募らせていた。
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