ある夜、彼女(52)は自宅を飛び出し、友だちのA子(52)の家に泊めてもらうことになった。自宅を飛び出た理由は、夫(59)との激しい口論だった。
「あの人、自分が一番えらいと思っているの。要求ばかりで、こっちのお願いは聞かない。会話にならないわ」
彼女はA子の前で愚痴をこぼし始めた。サラリーマンの夫と結婚して23年だが、ここ数年は会話が成り立たない。
「夫って、そんなもんよ。外で威張れないから、家であたるの。うちもそうだった」
2年前に離婚したA子は、達観したように言った。
「私も離婚したい。もうすぐ定年でしょ。一日中こんな調子で家にいられるかと思うと、ゾッとするの」
「わかる。娘さんも結婚したし、頃合いかも」
「何が嫌って、ことあるごとに『おれが稼いで食わせているんだから文句言うな』の売り言葉。『あなた一人で稼げたわけじゃないわ! ご飯も作れず洗濯もできないくせに』って言ってやるの」
「問題は離婚後のお金の確保。ご主人、定年でしょ。離婚で年金も分割されるみたいだから……」
A子が言いかけたとき、玄関のチャイムが鳴った。B子(50)だった。この日、B子からも、夫の顔を見たくないとの電話があったのだ。
「彼、お金遣いが荒いから注意したの。そしたら、『おれが外で仕事をとってくるから稼げるんだろ』なんて言うの。コスト意識ゼロ。怒り心頭よ」
B子はデザイナーで、夫(46)が営業を担っていた。結婚して12年だが、金銭感覚の違いに限界を感じていた。
「妻のありがたみが、わからないのよ。みんな離婚して年金もらっちゃえ」
A子の一言に、彼女もB子もうなずいた。 |