結婚前提と信じたのに

1年前、彼女(35)は結婚情報サービスのA社に登録した。しばらくすると、A社を通じて、B男(38)から交際の申し込みがあった。紹介書には有名大学卒業、商社勤務とあり、彼女あてのメッセージも記されていた。

 「お互いを信頼しあい、心安らぐ家庭をつくりたい」

 メッセージに期待をふくらませた彼女は、さっそく自己紹介書を送った。

 2週間後、彼女はB男と初めて会い、夕食をともにした。話をよく聴く彼の態度に彼女は好感を持った。

 「僕でもいいですか」

 「ええ、いいわ」

 3回目のデートは、彼女の誕生日の前日だった。B男は誕生祝いを彼女の部屋でしようと、ケーキを買って促した。彼女は戸惑ったが、断る理由も思いつかなかった。その夜、ケーキのろうそくを吹き消したところで、彼は性的関係を迫り、彼女は許した。B男が真剣に付き合ってくれていると信じたのだ。

 以後、2人は双方のアパートを行き来し、性的関係も続いた。回を重ねるうち、B男は無防備になっていったが、妊娠しても適切に対処してくれると、彼女は信じていた。

 ある日、約束なしにB男のアパートに行くと、部屋に女性がいた。

 「あの人、だれ?」

 「昔の彼女……。突然来たんだ。終わっているから心配するな」

 B男はこう言って彼女をなだめたが、実は、結婚情報サービスを介して彼女と同じころに知り合ったC子だった。

 1カ月後、彼女の妊娠が判明。B男はうろたえ、堕胎をすすめた。彼女は、彼に嫌われるのを恐れて従った。

 その後、彼女はC子から、「連絡を取り合おう」とメモを渡された。C子も、B男に不信感を募らせていたのだ。

 ほどなく彼女は、A社が彼に注意をしたことを知った。彼が本気で結婚する意思がないとわかって、深いショックを受けた。

 
 
不法行為で慰謝料請求可能

 

 B男の行為は、結婚に向けて交際相手を紹介するサービスを利用して女性に交際の申し込みを行い、結婚する意思がないにもかかわらず、結婚を前提にしているかのように装って長期間、性的関係を続ける計画的な意図を持っていたと考えられる。

 一方、彼女は、B男の「心安らぐ家庭をつくりたい」とのメッセージを受け、結婚できるものと誤信してB男の求めに応じて性的関係を許してきた結果、中絶せざるを得なかったことは、B男の行為によって人生設計を大きく狂わされたといえる。

 B男の計画的な意図は、C子との交際記録も加えてかなり証明できそうであり、人格権侵害の不法行為として慰謝料を請求できよう。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里