ホステスを突然クビに

北海道で育った彼女(37)は高校卒業後、東京の中堅広告会社で働いていたが、5年前に体をこわして退職。しばらく休養した後、地元に帰ってホステスになった。もともと酒は好きだし、客の接待も苦手ではなかった。

 クラブの名は「女神」。「うちは払いはいいけど、勤務条件がシビアよ」という経営者と、1年半前に次のような入店契約を結んだ。

 日給は、彼女の1カ月の売り上げが35万円以上になることを前提に、3万円。売り上げが10万円増えるごとに1000円アップ、逆に10万円減るごとに1000円ダウンする。客の飲食代が滞った場合は彼女が立て替え、客から支払いがあった時点で返還される。客が彼女へのホステスチャージを支払っても、それが彼女に渡されるのは翌々月のことだ。

 経営者は、次のような条件も付け加えた。営業時間は午後8時から12時までだが、平日は毎日出勤し、月に4日以上欠勤すると、当月支給額の10%をペナルティーとしてカットする。月に1回「点呼」と称して、クラブとホステスの間で客についての情報交換をするが、欠席すると日給1日分がペナルティーに。月3回、客と同伴出勤する義務があるが、できなかったときは、1回につき日給の半日分をペナルティーとする。

 彼女は、休養していた分を取り戻さなければとの思いもあり、条件を受けいれた。

 入店当初、彼女の評判はよく、売り上げも上々だった。しかし半年が過ぎた頃、再び体調を崩したせいか、売り上げが落ち込むようになった。

 経営者は彼女の同伴義務を月4回にした。それから数カ月、彼女は体をごまかしながら、何とかノルマを達成してきた。ところがある夜、経営者が彼女に告げた。

 「今日で契約はおしまい。明日から来なくていいから」

 突然の解約告知に、彼女はぼうぜんとした。

 
 
30日以上の賃金請求できる

 

 労働基準法では、解雇は少なくとも30日前に予告しなければならず、これをしない使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。そこで、彼女が同法の対象となる「労働者」に当たるかどうかが問題となる。

 店への出勤義務や客との同伴義務など彼女には仕事を断る自由はなく、「点呼」などを通じて店の指揮監督を受けていたといえる。1日の出勤に対して日給が定められていることから、報酬には労務の対価としての性格があり、店の備品、飲食物などはクラブが用意していただろうから、店に事業者性もある。毎日出勤の義務があるので、彼女が他のクラブで働くことはありえず、専属性もある。

 こうした点から彼女は労働者として認められ、労基法上の支払いを請求できる。

 
  筆者:安田洋子、籔本亜里