ワンクリックの落とし穴

「ごめん! 急な用事ができてだめなの。バイバイ」

 初デートのその日、待ち合わせの場所に来るなり、彼女はそれだけ言って去った。

 「いったい、どういうことなんだ……」

 彼(32)はボソボソ言いながら携帯電話を取り出すと、ショートメッセージが届いていた。件名は“お久しぶりです”。開いてみると、あるサイトへの誘いのメールだった。表示されていたアドレスをクリックすると、「セクシュアル・フレンド」というサイトにつながった。トップ画面には女の子の写真、その下に「18歳未満利用禁止」の文字。アダルトサイトだった。

 「今日は暇だし……」

 デートのドタキャンを理由に自分を納得させて写真をクリック。すると画面に突然、「当番組へのご入会ありがとうございます」と出た。

 「エッ! 入会するつもりなんかなかったのに」

 動揺しながらも、画面を読み進んだ。「あなたの個体識別番号はXYZ●●●です」「あなたのメールアドレスは▲▲▲です」「入会手続きが完了したので3日以内に3万円をお振り込み下さい」。振込先の口座番号もあった。

 あわてて利用規約を探すとトップページのいちばん下にあり、しかも「クリックで自動入会かつ後払いシステムを採用」とあった。

 「とんでもない!」。彼はすぐに携帯の電源を切った。

 翌日、「ご登録ありがとうございます」という件名のメッセージが届いていた。開いてみると、入金の催促と入金がない場合は「個体識別IDから貴殿の氏名や電話番号は判明しているので支払い請求を行う」と書かれていた。

 「こんな仕組みは詐欺じゃないか!」

 彼は怒りとともに、氏名や電話番号を知られたことに不安を感じていた。

 
 
個人情報を漏らさぬように

 

 パソコンや携帯電話のメールを利用し、ワンクリックだけでいきなり料金を請求する悪質な事件が増えている。業者は「個体識別番号」などと画面に表示し、アクセスした人の個人情報を入手したかのように思わせ、不安をかきたてて支払わせようとする。

 注意が必要なのは、メールアドレスを知らなくても携帯電話の番号だけで届くショートメッセージサービスを使う手口だ。業者がアクセスした人の携帯電話番号を知る可能性はある。ただし、それ以外の氏名や住所などの個人情報が入手されることはない。

 電子消費者契約法が求めている、本当にこの契約でよいかと確認できる画面がないうえに、たとえ重過失があっても錯誤による契約の無効を主張できる。請求の電話がかかっても、氏名や住所など相手が知らない情報を漏らさないように注意しよう。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里