相続した土地に他人が

5年前、彼女(50)は母から埼玉県にある実家の土地を相続した。土地は宅地だが、更地だった。相続人は彼女1人。ただ、彼女は横浜市で夫と持ち家 に暮らしていたので、埼玉の土地を使う予定はなかった。そこで、彼女は、土地を知人から紹介されたP(45)に貸すことにした。

 「Pさんが自分の家を建てるのは結構ですが、土地を無断で他の人に転貸することはやめてくださいね」

 彼女は、業者に作ってもらった借地契約書を読みながら氏に確認した。

 「了解しました。仕事場兼自宅を建てようと思っていましたが、いい借地を見つけることができてよかった」

 個人でIT事業をしているPは、手頃な賃料に満足そうだった。

 まもなく彼は、1階を仕事場、2階を居住用とした建物を建てた。賃料も滞りなく振り込まれた。彼女はいい副収入に満足し、埼玉まで様子を見に行くこともなかった。

 ところが、半年前、通帳をみて賃料の入金が2カ月間止まっているのに気づいた。電話をしたが、応答がない。現地に出向くと、驚くべきことに、住人がPからQと名乗る人物にかわっていた。

 「2カ月前にPから家を借りたんよ。Pの家だからいいでしょ」

 こわもてのQは文句あるかと言わんばかりだった。

 さらに彼女を戸惑わせたのは、いつのまにか建てられた新しい建物だった。あぜんとしている彼女の様子を察して、Qが口を挟んだ。

 「おれの書斎さ。Pは了解しているよ。自分の金で建てたんだからいいだろう」

 「いったいどうなっているの……」

 彼女はPの連絡先を聞き出し、連絡をとった。Pは滞納した地代はすぐに払うと言うが、転貸には言葉を濁すだけ。彼女は裏切られた思いで胸がつまった。

 
 
第三者の占有防ぐ手だてを

 

 Pが土地の一部を無断で転貸しているので、彼女はそれを理由に借地契約を解除できる。ただ、土地にはP所有の建物とQが新たに建てた建物が立っているので、彼女としては、それらも除去してもらったうえで更地の返還を求めたい。求めを拒まれれば、裁判にせざるをえない。

 注意しなければならないのは、決着がつかないうちに、彼らがそれぞれの建物の所有や占有を無関係の第三者に移転させてしまうと、彼女が裁判で勝っても、判決の効力が第三者に及ばないために、改めて裁判を起こす面倒が起きうることだ。

 そこで、彼女としては、裁判がやむを得ないと判断したら、早急に処分禁止や占有移転禁止の仮処分を打ち、そうした事態を回避しておくことが望ましい。

 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里