離婚で譲った家の税金

 ある休日、銀行に勤める彼(45)は、結婚して15年になる妻から離婚を切り出された。

 「離婚しましょう。あなたもそれがいいでしょ」

 朝食をすませるなり、彼女が口火を切った。

 「何だよ、突然?」

 彼は、できるだけ平静を装いながら答えた。

 「あなた、職場の好子さんとずっと付き合ってきたでしょ。我慢してきたけど、やっと別れる決心ができたの」

 彼は動揺を隠せなかった。バレていないと思っていたからだ。しかし、証拠を次々と挙げられ、言葉がなかった。

 妻の決心の固さを感じた彼は数日後、離婚に同意した。

 「娘と一緒にこの家にこのまま暮らしたいの。家の名義を私にして」

 彼女は、離婚の財産分与として東京都内にある彼名義の自宅を要求した。

 彼は仕事を休んで3日間じっと考え、彼女に譲ることを決めた。原因は自分にあるから譲るものは譲り、自分は好子と裸一貫、出直す……。

 「譲るのはいいが、財産分与を受けるお前が税金を払うことになるが、いいのか」

 「いいの。ここに住めるなら。落ち着いたら私も働いて稼ぐから」

 数日後、彼は、自宅を譲渡する旨を約した離婚協議書に署名、捺印(なついん)し、彼女に登記移転手続きを委ねた。

 ところが、しばらくして彼は思わぬことを知って大慌てする。離婚を報告した上司から、財産分与した家の税金は彼が支払わなければならないことを指摘されたのだ。彼は、元妻に財産分与の撤回を申し出た。

 「今さら何よ。銀行マンなのにそんなことも知らなかったの?」

 「銀行マンといっても裏方だよ。そんなことより……」

 だが、財産分与のやり直しを彼女は頑として拒否した。

 
 
「錯誤で無効」も主張は可能

 

 財産分与を現金以外ですると、所得税法では不動産を時価で配偶者に譲渡したことになり、課税の対象となる。居住用不動産の場合には譲渡益から 3000万円を控除できる特例があるが、親子や夫婦など特別な間柄の人に譲渡した場合は適用を受けられない。離婚後に譲渡することが、適用を受けるための 要件になる。

 離婚前に譲渡した場合は、税務署に上申書を提出して特例を認めてもらうか、錯誤(思い違い)による契約無効を主張することになる。このケースでは妻にも錯誤があり、「銀行マンなのに」と夫の重過失を主張はできない。

 最近は譲渡によって損を生じることが多く、譲渡した側が課税される心配はない。ただ、住宅ローンが残っている場合は、その支払いが滞ると問題が生じるので、譲渡した側にローン支払いを義務づける必要がある。

 
  筆者:角田圭子、籔本亜里