ある休日、銀行に勤める彼(45)は、結婚して15年になる妻から離婚を切り出された。
「離婚しましょう。あなたもそれがいいでしょ」
朝食をすませるなり、彼女が口火を切った。
「何だよ、突然?」
彼は、できるだけ平静を装いながら答えた。
「あなた、職場の好子さんとずっと付き合ってきたでしょ。我慢してきたけど、やっと別れる決心ができたの」
彼は動揺を隠せなかった。バレていないと思っていたからだ。しかし、証拠を次々と挙げられ、言葉がなかった。
妻の決心の固さを感じた彼は数日後、離婚に同意した。
「娘と一緒にこの家にこのまま暮らしたいの。家の名義を私にして」
彼女は、離婚の財産分与として東京都内にある彼名義の自宅を要求した。
彼は仕事を休んで3日間じっと考え、彼女に譲ることを決めた。原因は自分にあるから譲るものは譲り、自分は好子と裸一貫、出直す……。
「譲るのはいいが、財産分与を受けるお前が税金を払うことになるが、いいのか」
「いいの。ここに住めるなら。落ち着いたら私も働いて稼ぐから」
数日後、彼は、自宅を譲渡する旨を約した離婚協議書に署名、捺印(なついん)し、彼女に登記移転手続きを委ねた。
ところが、しばらくして彼は思わぬことを知って大慌てする。離婚を報告した上司から、財産分与した家の税金は彼が支払わなければならないことを指摘されたのだ。彼は、元妻に財産分与の撤回を申し出た。
「今さら何よ。銀行マンなのにそんなことも知らなかったの?」
「銀行マンといっても裏方だよ。そんなことより……」
だが、財産分与のやり直しを彼女は頑として拒否した。 |