不審な支払い督促が…

 彼女(47)は、笑うに笑えない事件に遭遇した。

 2カ月前、息子(23)あてに裁判所から支払い督促の封書が突然届いた。発送は東京高等裁判所内郵便局からだった。開いてみると、出会い系サイトからの支払い請求で金額は10万円。利用料金に滞納があり、催促しても支払われないので督促に至ったと書かれていた。

 「10万円も出会い系に?」

 帰宅した息子を問いただすと、バツの悪そうな顔をした。出会い系サイトを利用したのは確かなようだった。

 「でも、かかった金は給料から全部払ったよ。10万円もの請求なんて変だ」

 息子はこれまでの支払い明細を見せて言った。何枚もの明細書に、彼女はあっけにとられたが、息子がうそを言っているとも思えなかった。

 翌日、彼女は裁判所に確認の電話を入れた。すると、息子あてに支払い督促を送った事実はないという。偽造文書だったことが判明し、そのまま無視することにした。

 ところが先日、また督促が届いた。今度は夫あて。17万3千円の請求で、やはり出会い系サイトだが、息子あての業者とは別の名前だった。

 「あなた、出会い系やっていたの」

 帰宅した夫(48)に支払い督促を差し出した。夫は少し青ざめた表情をした。

 「なんかの間違いだろう。息子のときと同じ悪質なイタズラさ。放っておけ……」

 懸命に平静を装いながら、夫は言った。だが、彼女は、「なぜあなたあてに届くの」と食い下がった。とうとう根負けした夫が弁解を始めた。

 「ちょっとした遊びさ。でも無料サイトを使っただけで、こんな請求は身に覚えがない。間違いさ、間違い」

 手を横に振り、視線をそらしながら否定し続ける夫の姿に、彼女は言葉をなくした。

 
 
あわてず裁判所に確認を

 

 支払い督促など裁判所の手続きを装った悪質な請求が増えている。支払い督促とは、金銭の支払い請求などについて債権者が簡易裁判所に申し立てを行っ て出される督促手続きである。簡便に素早く紛争を処理するため、裁判所の書記官が債務者の言い分を聞かずに出す点が特徴だ。債務者は、異議があれば、受け 取って2週間以内に異議の申し立てをしなければならず、放置して督促が確定すると、強制執行されてしまう。

 偽造文書なら無視すればよいが、裁判所の書類はなじみが薄く、真偽の判断は難しい。あわてずに、まずは裁判所に真偽を確認することが大 切だ。このケースでは、息子あての督促は偽造なので無視してよい。夫あてのものは真偽が不明なので裁判所に確認し、正式な督促でも身に覚えがないならば、 異議を申し立てて訴訟で争うことになる。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里