思わぬ株主代表訴訟が

 ことの発端は1年前、服屋氏(50)が「この会社、ほんまに役に立っとるんか」と怒鳴り込んできたことだった。

 彼(48)は「町おこし」株式会社(資本金1000万円)の代表取締役。同社は8年前、彼、服屋氏を含めた8人の株主の出資でA町に設立された。目的 は、A町の人口減と隣町に進出した大型店舗の影響で年々寂れていく駅前商店街の活性化にあった。株主はみな、駅前商店街で商売をする店主たちだ。

 「うちの店は全然客が入らん。いったいどないなってんねん!」。8年目にしてようやく客足を戻す成果が出てきたと店主たちの評判を聞いていた彼には、服屋氏のクレームは意外だった。

 レストランや土産物屋などは各種イベントのおかげで売り上げはあがっていた。しかし、服屋氏が経営するような中高年向けの衣料品店は、大型店舗や都会の専門店に客を奪われたままだったのだ。

 「この会社つぶして、わしの出資分を返してくれ!」。服屋氏の怒りは収まらず、さらにこう付け加えた。「取締役と監査役に報酬が出ているそうやけど、会社つぶす前に返してもらわんと」

 「そんなむちゃな」。彼にしてみれば、ここ数年自分の店を脇において町おこしの仕事に全精力を注いできたのに、報酬を返上しろという要求は受け入れられなかった。

 「8年間の報酬が合計4500万円。報酬額はだれが決めた? 株主総会の決議がないやろ? 調べてあるんやで」。服屋氏は本気のようだった。確かに会社の定款には、役員報酬は株主総会の決議をもって定めるとあるが、報酬額についての決議はされていなかった。

 服屋氏の請求に対し、役員会は拒否することで一致。すると、服屋氏は株主の権利として、株主代表訴訟を起こし、損害賠償を求めてきた。彼は対応に追われている。

 
 
事後的に決議をすればよい

 

 商法は、株式会社の取締役及び監査役の報酬について、定款にその額の定めがないときは、株主総会の決議で定めると規定する。その趣旨は、取締役の報酬が取締役や取締役会によるお手盛りで決まることを防止し、監査役の報酬は、監査役の独立性を保持することにある。

 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われても、事後的に株主総会の決議を経ればその趣旨は達せられる。その決議の内容などに照らし、特段の事情がない限り、当該役員報酬の支払いは適法で有効と考える。

 確かに、訴訟提起後に決議を行うことは勝訴に導くための行為だが、それだけで訴訟上の信義に反するとまでいえない。「町おこし」会社も、今からでも役員報酬の株主総会決議を行うべきだ。

 
  筆者:功刀美津保、籔本亜里