認知されたら手当なし?

 彼女(35)にとって今年は転機の年だ。ひとり息子(12)が中学校に入学。彼女も介護ヘルパーとして本格的に働くことになったからだ。

 ここまで来るには苦難があった。13年前、彼女は大学の卒業旅行で出かけたスキー場で彼(40)と出会い、1年ほどつきあううちに妊娠。ところが妊娠を 告げると、急に彼はよそよそしくなって連絡を避けるようになった。しばらくして理由は明らかになった。彼には妻子がいたのだ。

 「私をだましていたのね」「すまない……」。彼は謝ったが、その後は黙っていた。

 「いいわ。でも、認知して。私が育てるから」。彼のことは好きだったし、後悔もしていなかった。誕生する命を自分の手で育てる覚悟もしていた。ただ、子どものために認知はしてほしかった。

 しかし、彼はその後も逃げるばかり。息子が生まれても、彼は認知しなかった。

 一方、息子の養育のため、彼女は児童扶養手当の給付を受けることにした。親の反対を押しきって産んだ手前、親に頼れなかった。パートをしながらでも、しばらく頑張るつもりだった。

 その後、彼女が家裁に調停を申し立てると、彼の妻子にも息子のことが知られ、すったもんだした結果、ようやく彼は息子を認知した。息子は2歳になっていた。一連の経緯からみて彼には何も期待しなかったが、息子に父親をはっきりさせることができて、少しホッとした。

 ところが、認知を届け出ると、児童扶養手当が取り消されてしまった。「なぜ? 認知はされましたが、養育費が送られてこないので困ります」。彼女は役所で食い下がった。「規則で決まっているので」。係の男性は当然のように答えるだけだった。

 せっかく認知されたのになぜ、こんな仕打ちを受けるのか、彼女は今日までずっと疑問を抱いている。

 
 
判例あり特例で受給できる

 

 児童扶養手当は、18歳以下の児童を養育する母子家庭などに支給される。このケースのような10年ほど前は、母が婚姻によらないで出産した児童が父 から認知されると、手当を受給できないという政令規定があった。この規定をめぐっては、その後訴訟で争われ、02年に最高裁判所は、母子家庭を支援しよう という法の趣旨に反し無効であると判断した。認知により、法律上の父は存在する状態になるものの、世帯の生計維持者としての父が当然に存在するとは限らな いからである。

 このような経緯から、現在は、98年7月以前に児童が認知されたことにより手当を受給できなかった人に対し、各自治体が当時の手当額で特例の支給を行っている。彼女も所定の要件を明らかにすることで支給を受けられよう。

 
  筆者:安田洋子、籔本亜里