「快楽」で不快はご免よ

 10年前、彼女(45)はある町に一戸建てを買った。当時、家の近くには企業の大きなグラウンドがあり、休日は野球やテニスでにぎやかだったが、平日は閑静で低層住宅が並ぶ街並みだった。

 ところが1年前、リストラでグラウンドが売却され、しばらくすると、その跡地に、風呂付きの娯楽施設「Spa KAIRAKU」が建設される計画が判明した。

 「スパですって」「楽しそうね」。業者から周辺住民に建築案内が配られると、近所の主婦たちの間で話題になった。泡風呂、露天ぶろ、サウナ、マッサージ、アカスリに加え、宴会施設もある。営業時間は午前10時から午後11時半までという。

 「毎日夜遅くまでうるさくなるだけよ」。彼女は、家の前の道路わずか1本を隔てて大きな娯楽施設ができるのが心配だった。

 「100台以上も入る駐車場があるわ。車が殺到するかも」。隣に暮らす仲良しの主婦がそう指摘した。出入り口は3カ所だが、1カ所は彼女たちの住宅街側にあった。

 彼女は有志の主婦たちと一緒に、施設ができると実際どれほど生活環境が変わるのかを調べはじめた。業者が別の地区で経営する同規模の「KAIRAKU」を訪れ、人や車の出入りなどを記録。その結果、やはり車の騒音が夜遅くまで続く可能性が高いことがわかった。

 「車のお客様は住宅街と反対側の幹線道路を利用されるので、皆さまにご迷惑をおかけすることはそれほど……」。業者は、予想される車の来場経路をもとに説明した。

 「幹線道路が混雑すれば住宅街が抜け道になるのよ。リピーター客がふえれば、影響は大きいわ。KAIRAKUで不快なんてご免だわ!」

 彼女は、建築を中止させたいと真剣に思っている。

 
 
不服申し立てや訴訟提起も

 

 建築工事を中止させようとしても、業者は簡単には応じないだろう。第1種または第2種低層住居専用地域なら、良好な住環境の保護地域なので、法律や条例で建築物は様々な規制を受ける。規制に照らし違法とならないか調べる必要がある。

 また、「KAIRAKU」の建築確認が出ていれば、行政に不服申し立てをする。不服が認められない場合は、建築確認処分の取り消し訴訟を起こすことが考えられる。

 業者に対しては、生活環境が乱されることを理由に、人格権侵害に基づく建築の差し止め請求訴訟、次善の策として建築工事禁止の仮処分の申請を行う。騒音 被害が焦点なら、車の来場経路、予想される車の数(特に夜間)、同種施設の騒音調査結果との比較などをもとに、予想される騒音被害が受忍限度をこえること を主張することになる。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里