どうして年金が減額に


「エッ! どうして400万円以上も減額なの?」

 昨年夏、60歳を迎えた元公立高校教諭の彼女は、年金の受給開始の請求をしたのだが、まもなく届いた年金証書を見て驚いた。年金受取額の半分の約6万円が、6年間にわたって差し引かれることになっていたからだ。

 彼女はさっそく共済組合に連絡をとった。「月々6万円も引かれるなんて、何かの計算間違いじゃないんですか?」。そう問いかけると、「お待ち下さい。調べますから……ああ、以前1度、退職一時金を受け取っておられますよね。その分を返還していただくということです」。彼女の不安をよそに、回答はあっさりしたものだった。

 彼女は68年4月から公立高校で英語を教えていたが、結婚、出産し、76年3月末に退職。少しの間育児に専念しようと思って一時的に休職したつもりだ。実際、その2年後には教壇に復帰している。

 その退職の際に受け取った一時金を、利息をつけて返還しなければならないのだという。当時受け取った額は87万円ほど。これに複利計算で算出した利息が加算されて、返還総額が約400万円になっているという。

 「一時金を受け取るとき、そんな話は全く聞いていませんが」。返還という言葉にがくぜんとした彼女は、何とかならないかと電話口で懇請した。「これは制度ですから。重複支給は認められませんので」。組合の回答は変わらなかった。

 教壇を去ったのは、体力の衰えを感じ、後進に道を譲ろうと決心した2年前、58歳のとき。「せめて年金額を調べてもらった2年前に一時金の説明があれば、60歳まで無理して働いてでも、工面の算段を考えられたのに……」

 思わぬ返還で資金繰りが狂った彼女は頭を抱えている。

 
 
過去受けた一時金は要返還

一度退職して一時金を受給した公務員が復職し、前後の期間を通算して20年以上となると、一時金を受給した期間も年金の算定期間になる。そのため、一時金と年金の重複支給が行われないよう、一時金は利息をつけて返還する。年金制度が発足した当初は一つの制度内で加入期間を満たす必要があったからだ。

 その後の改正で、年金制度間の通算が進んだため、一時金制度は79年12月31日で廃止された。が、それ以前に一時金を受け取った彼女のような場合は、今も返還の対象になっている。

 返還額は、一時金の額に、年金受給権を持つようになった月までの期間、年4%(01年3月までの期間は年5.5%)の複利計算で算出した利息が加算される。公務員で一時金を受給したことがある人は、退職前に返還額をしっかり把握しておきたい。

 
  筆者:安田洋子、籔本亜里