そんな保証してないよ

 

彼(56)は、都内で小さな印刷会社を経営している。数年前には倒産の危機もあったが、大学時代の友人スズキが資金をつないでくれたおかげで何とか乗り切ってきた。

 1年前、食品会社を経営するスズキから久しぶりに会わないかとの誘いがあった。

 「その後、元気か」

 「今こうしていられるのはスズキのおかげだよ。ところで、何か頼みごとかい?」

 スズキは、言いにくそうに話し始めた。「実は今度新しい機械を1台買うんだが、保証人になってもらえないか。機械は700万円。割賦払いだが、保証人を立てなくちゃならないんだ」「保証人?」

 彼は一瞬迷った。しかし、スズキは大の恩人だし、同じ中小企業の経営者としてスズキがあえて彼に依頼してくる苦労もわかった。彼は保証人を引き受けることにした。

 契約内容は、スズキの会社がキムラ社からその機械を買う。代金700万円について、スズキの会社がクレジット会社アンシンとの間で立て替え払い契約を結ぶ。アンシンがキムラ社に立て替え払いをし、スズキの会社がアンシンに割賦払いをしていく。その割賦払いの連帯保証人を頼まれた。一連の契約書を確認し、彼は印鑑をついた。

 ところが数カ月後、スズキの支払いが滞り、連帯保証人である彼にお鉢が回ってきた。スズキを捜したが行方不明で、会社はすでに倒産していた。方々に連絡をとった結果、思いがけないことが一つ判明した。スズキがキムラ社から機械を買ったというのは全くのうそ。スズキは会社の運転資金を工面するため、キムラ社と通じて売買を装い、アンシンから振り込まれた立て替え金をキムラ社から受け取っていた。いわゆる空クレジットであった。

 「こんなことなら保証人にはならなかった……」。彼は突然降ってきた借金に困惑している。

 
 
誤信があり無効の可能性も

このケースでは、たとえ機械の売買契約がうそでも、スズキがクレジット会社に返済しなければならない事実に変わりはない。彼はその支払いの保証人となったのだから、「機械の売買がうそと知っていたら保証しなかった」と彼が主張しても認められない、という考え方が有力である。

 しかし、主債務が正規のクレジットである場合と、経営が破綻(はたん)した人が空クレジットを利用し、不正常な形で金融を得る場合とでは、主債務者の信用に実際上大きな差があり、保証人のリスクも異なる。主債務の内容は、保証の重要な内容である。

 したがって、彼の場合も、保証の前提となる主債務の重要な部分に誤信があるので、彼自身に重大な過失が無い限り、保証契約を無効とし請求を拒否できる可能性がある。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里