カードないのに請求が

 

2カ月前、「楽々クレジット」という会社から届いた請求書に彼女(59)は驚いた。「33万円? 何これ?」

 内訳には、レストランの食事代やデパートでの衣料品代など10項目以上が記載されていたが、どれも彼女には覚えがなかった。彼女はここ3カ月体調が悪く、外で食事をしたり、買い物に出かけたりはしていないからだ。

 彼女はクレジット会社に電話した。「私、カードで買い物などしていないんですけど」「そうですか、では調べてみます」。電話口の女性は少しの間をおいて、言った。「確かにお客様のカードでの買い物と記録されていますが」「だって私はカードを持ってないし」「お客さま、昨年○月○日に当社カードにご契約いただきましたよね?」

 定年退職した夫(65)と2人暮らしの彼女は、毎月決められた現金を夫からもらって生活している。自分名義の郵便貯金通帳を1冊持っているだけで、これまでにクレジットカードは一切作ったことがない。カードは怖い物だと思ってきたからだ。

 「よく思い出してみろ、何か大事なものを他人に渡したりしていないか」。事情を聴いた夫は、彼女名義のカードが誰かに無断で作られたのではないかと疑った。

 「そういえば1度だけ、銭湯で保険証を貸したことが……」。銭湯で知り合った同年代の女性に「医者に行きたいが保険料が払えず国民健康保険証が止められている。保険証を貸してくれないか」と頼まれ、気の毒に思って数時間貸したことがあった。

 彼女はクレジット会社に出向き、事情を話した。「当社では保険証などでご本人の確認をしており、間違いないと考えておりますが」。彼女はどう反論したらいいかわからず、会社の説明にただうなずいた。責任は彼女にあると言われ、彼女は支払わなければならないかと悩んでいる。

 
 
確認不十分で支払いは不要

このケースは、保険証を貸した女性が彼女の承諾なしに彼女名義のクレジットカードを作成し、その利用で発生した代金が彼女に請求されたものだ。問題は、会社と彼女の間でクレジット契約が成立しているかどうかだ。

 彼女には保険証を貸した際にそれがクレジット契約の締結に使われるとの認識はなく、また、本人確認が保険証だけで行われ、顔写真添付の身分証明書や電話などによる直接の確認もなかったことから、名義使用の承諾はないと認められる。

 事情が判明したのちの説明の場で、彼女がクレジット会社の話にうなずいたという理由だけで、彼女が名義使用の承諾や代金支払いを認めたとは言い難い。したがって、彼女に代金支払い義務はないだろう。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里