車の注文、記入はしたが

 

彼(24)は中小運送会社のサラリーマン。半年前にカノジョ(23)ができたが、一つだけ悩みがあった。「ドライブ行きたいなぁ……」。カノジョが発するこの言葉に応えられなかったのだ。

 「運送会社に勤めていて車も持っていないなんてシャレにならない」。彼は奮起し、わずかな貯金をはたいて車を買うことにした。

 「お客さん、新古車なんてどうです?」。ある日立ち寄った販売店の営業マンに彼は勧められた。新古車とは、登録済みだが未使用の車のことで、新品同様だ。

 彼はカタログみたいなものを見せられた。好みのタイプを指定すれば、営業マンが探してくるという。

 彼は頼むことにし、車名、色、付属品、価格、税金などが計算された「自動車注文書」に記入を求められた。「代金の半額をお振り込み頂いてから車を探します。それとこちらにもサインを願います。内容はこの通りです」

 営業マンがそう言って指さしたのは「特約条項」。注文書署名の日が契約成立時期で、契約が解除された場合の違約金は車両本体価格120万円の15%である旨が明記されていた。彼は説明を受けた記憶はあるが、カノジョとドライブしている姿が目に浮かんでうわの空だった。

 ところが翌々日、別の中古車販売店で、中古だがまだ新しい同じ車種が、もっと安く買えることがわかった。彼は注文を撤回しようとあわてて先の販売店に電話した。

 「キャンセル? わかりました。では、違約金として18万円お願いしますね」。営業マンのひと言に彼はドキッとした。「どうして? まだ一昨日のことですよ。車もまだ探していなんでしょ?」「お客さん、サインされたときに説明しましたよ。契約も成立しているんですから」

 「そんな。こちらは探すのをお願いしただけのつもりで……」。冷や汗が彼の体を伝わっていった。

 
 
店に損害なく違約金は無効

このケースでは、注文書の記載内容や特約条項から、契約は成立している。問題は、彼が違約金18万円を払わなければならないかだ。

 このケースの契約には消費者契約法が適用され、解約時における事業者の平均的な損害を超える違約金は無効となる。確かに、彼が署名した注文書には、契約が解除された場合に違約金を請求されても異議がない旨の特約はある。しかし、販売店は代金半額の支払いを受けてから車を探すと言っていることから、契約解除によって販売店に現実の損害が生じているとは認められない。

 したがって、特約による違約金請求は消費者契約法の趣旨から許されず、彼は18万円を支払う必要はないだろう。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里