盗み見た不貞の証拠は

 彼女(41)は東京で短大を出てOLをしていたが、都会暮らしに疲れて帰郷し、14年前、幼なじみのヨシオ(42)と結婚した。ヨシオは家業のうどん店を営んでいる。

 ヨシオの様子が変だと気づいたのは半年ほど前だった。「隣町のダチのとこへ遊びに行ってくる」「友だちって誰?」「お前の知らないやつ。飲むから帰らないかも」。ヨシオはこう言って、2週間に1度、休みの日に出かけた。

 そのうち、家や店の金が妙に多く引き出されていたり、下着がいつのまにか新しくなったりしていたので、彼女は胸騒ぎを覚えた。

 ある日、彼女は彼のあとをつけた。車で30分。隣町どころか、ずっと離れた町でヨシオはこぎれいなマンションに入ったのだ。

 「なんてこと!」。郵便受けにヨシオの名前があった。管理人によれば、それは賃貸マンションで、ヨシオは1年前から借りているという。

 彼女は向かい側のマンションから、ヨシオのいるマンションを見た。ヨシオの部屋のベランダに女性ものの下着が干してあり、若い女が取り込む様子が目に入った。

 次の日、ヨシオは何げない顔で帰ってきた。問い詰めたかったが、一方で本当のことを知ることも怖かった。

 以来、彼女は彼の身辺捜索をするようになった。あるときはあのマンションの郵便受けを探り、ヨシオと女の連名宛の旅行会社からの封筒を発見し、こっそり封を開けた。「温泉旅行のチケット!」。彼女はぼうぜんとした。

 最近、ヨシオが急にメールをやりだした。ある日、彼のパスワードのメモが偶然机にあったのでアクセスしてみると、1人の女と頻繁にメールをやり取りしていた。内容から明らかに2人には「関係」があることが読み取れた。

 「あの女だわ……」。彼女は、女を訴えてでもヨシオを取り戻そうと考え始めた。

 
 
慰謝料の請求には使えるが

 

 ヨシオの相手がマンションの女性で、メールの女性と一致し、さらにその女性がヨシオに妻がいることを知って関係を持っていたとすれば、彼女は不貞を理由にその女性に対し不法行為による慰謝料を請求できる。問題は、その不貞を立証するための証拠の収集方法にある。

 他人のパスワードを使って他人のメールを読むのは、不正アクセス行為として禁じられ、刑罰が科せられる場合がある。郵便物も無断開披し隠匿などすれば、夫婦であっても問題となる。

 もっとも、彼女とヨシオは同居の夫婦であり、著しく反社会的な手段を用いたともいえないので、慰謝料請求の証拠としては使えるだろう。しかし、夫婦だからといって何でも許されるわけではないので注意したい。

 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里