「今度公民館で日本舞踊の発表会があるの。一緒に行きましょうよ」。2週間前、彼女(44)は日本舞踊を習い始めた近所の友人から誘われた。「同じ日に着付け教室もあるの。しかも無料よ」
友人の誘いに彼女は乗ることにした。息子が中学生になって余裕ができ、ちょうど何か新しいことを始めたいと思っていたときだった。公民館には、舞踊の発表会場はもとより、別室の着付け教室にも多くの女性が集まっていた。
「着物ってなかなか着る機会がないけど、やっぱりいいわね」。隣の席の女性たちがあれこれ言うのを聞き、彼女も若いころ着た着物を懐かしく思い出した。
「試着をなさってみません?」。彼女が休憩で廊下に出たところ、着物を着た中年女性から声を掛けられた。「クラシックから新作まで色々ご用意していま す。着付けにいらした方々に特別にご紹介しているんです」「そうね……見るだけでもいいの?」。舞踊や着付けを目の当たりにし、彼女は興味津々だった。
連れていかれた部屋では、着物の展示販売会が催されていた。並べられた着物や帯を手に取ると、店員たちが次々と声をかけてきた。
「とてもお似合いですわ」「私みたいなオバサンにはちょっと派手じゃない?」「何をおっしゃいます。年を重ねるほど女性には着物が一番」
しかし値段を聞くとなかなか手が出なかった。夕方になり、帰ろうとしたが、店員たちは粘っこく購入を勧めてきた。「こちらの一着は通常の半額のお値打ち!」「もう帰らないと……」「分割払いもOKです。ぜひ!」
結局、夜7時すぎまで事実上缶詰めにされ、彼女は根負けして帯とセットで55万円で買う契約をしてしまった。
「やめておくべきだった……」。それから2週間、彼女は解約できないかと悩んでいる。 |