正社員とどこが違うの

彼女(46)は、8年前からある中小機械メーカーの臨時社員として勤めている。夫の勤めていた会社の工場が閉鎖されて家計が苦しくなり、彼女も働きに出るようになったのが始まりだった。

 彼女の会社は社員が80人、うち30人が彼女のような臨時社員だった。契約は3カ月間の雇用期間の更新を繰り返すもので、20年間臨時社員として働く女 性もいた。勤務は朝8時半から午後5時。ほとんどは工場の組み立てラインで働く。ラインには正社員も一緒に従事し、作業内容も、勤務日数も全く同じだっ た。

 「それでいくらもらうの。正社員と比べて3割以上安いなんておかしくない?」

 2カ月前、高校の同窓会で隣の席に座った友人が目を丸くして彼女に言った。友人は、東京の経営コンサルタント事務所に勤めていてその方面に詳しいようだった。

 「でも、だれも何も言わないわ。私だって採用のとき、3カ月ごとに契約更新が予定されて、希望すれば長い間働けるようだったから、いいなと思ったの」

 「正社員になる話もないんでしょ。同じ質と量の仕事をしているんだったら、もっともらっていいんじゃない」

 友人は、上司に掛け合ってみるべきだと言った。帰り道に彼女は、確かに友人が言ったことは理屈にかなっていると思った。でも、臨時社員の女性たちは自分も含めて年齢が上の主婦がほとんど。賃金のことを言う資格なんてあるのかしら……。

 数日後、同僚の女性たちに話をしたところ、皆もどこかで変だと思っていたと言う。彼女は、思い切ってラインの監督上司に賃上げを相談してみた。

 「うちは受注生産が主だから景気の波を受けやすい。言っちゃ悪いが、臨時社員は最悪のときのクッション。幸い、これまでは事無きで来ているけどね」。上司の言葉に、彼女は何と言ってよいのかわからなかった。

 
 
均等待遇の理念に反す格差

 

 賃金の決定は契約自由の原則が支配し、性差別禁止や最低賃金法はあるものの、同一価値の労働に対し同一の賃金を払わなければならない原則(同一労働同一賃金の原則)を明言する法はない。

 しかし、この原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において一つの重要な判断要素であり、その理念に反する賃金格差は、使用者の裁量の範囲を逸脱して公序良俗違反になる場合もある。

 このケースでは、職種や作業内容、勤務時間などが同一であるにもかかわらず、臨時社員の賃金が正社員より3割以上も下回っているので、公序良俗違反を根拠に、格差分の損害賠償請求を裁判所が認める可能性がある。

 
  筆者: 本橋美智子、籔本亜里