元夫に娘は会わせない

「娘に会わせろ。おれは父親だから権利があるはずだ」

 別れた元夫(54)からのひっきりなしの電話に、彼女(49)は悩まされていた。

 離婚して3年。高校生のひとり娘がいる。別れた彼との結婚生活は20年余りだった。彼女は経営コンサルタントで、彼は大手電機メーカーのエンジニア。2 人とも仕事人間で、たまに家で一緒にいる時間があっても、互いのストレスをぶちまけて終わった。彼が彼女に暴力をふるうこともあった。

 そして彼女は離婚を選んだ。彼女が娘を引き取り、月1回彼と会わせることにし、彼は養育費として月5万円を振り込む取り決めをした。

 ところが離婚して半年は振り込まれていたが、次第に途切れ途切れになっていった。それでも、彼女は父娘の面会の約束を守った。

 「学校はどうだ? 彼氏でもできたか?」。面会で彼は娘に対しては愛想よく振る舞った。一方、彼女とはいつもささいなことで口論になった。公衆の面前でけんかを始め、彼が手を出すこともあった。家族の日はこうして台無しになった。

 養育費のことはあえて口にしなかった。彼女の年収は1000万円を超えるが、彼はリストラの対象となり賃金カットにあい、これも彼の爆発の一因だった。彼女には自分で稼いでいく自信があった。

 1年前、彼女は会社の同僚と一緒に独立し、それまで以上に仕事にのめり込んだ。ところが無理がたたり、過労で倒れてしまった。しばらく休まざるをえず、復帰しても前のようなスタイルで仕事はできず、収入は激減。大学進学を控える娘の親として一気に生活が厳しくなった。

 面会のたびにエスカレートする元夫の言葉の暴力もかなりこたえた。娘もそんな2人の様子を目前で見ているためか、彼に会いたくないと言い出した。彼女は、いまは娘を彼に会わせたくないと、面会を控えている。

 
 
面接交渉権には制限もある

 

 離婚後、未成年の子と別居している親が子に会う権利を面接交渉権という。面接交渉権は、正当な理由のない限り原則として否定されない。親子の面会は 子の心身の成長にとって重要であって、子の福祉が害されないよう円滑に行われなけばならないからだ。したがって、養育費を支払われないという理由だけで面 接交渉権を否定することは通常難しい。

 もっとも、子の福祉に害があると考えられる場合、例えば、面接の機会に暴力行為がある、両親の争いが再燃するおそれ、あるいは子が面接を望まないときなどは、面接が制限される。このケースでも、彼の暴力がひどくて子が面接を望まないことが明確ならば、面会を拒否できる。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里