息子の勉強のためが…

そろそろ進学先を考えなければならない時期にきているのに、息子(14)のやる気がないことに彼女(42)はいらだちを感じていた。

 そんなある日、学習教材を販売する若い女性が訪ねてきた。「学校とは全く異なった新しい教材でお子さんの学習意欲をもり立てる試みなんですが、お話を聞いていただけませんか」

 それから1時間、彼女は女性セールスと話し込んだ。教材は絵や図をふんだんに採り入れたテキスト4冊に、今風のCD4枚とドリル8冊。見た目にはなかなかしゃれていて、これならやる気をそそるかもしれないと彼女は思った。値段は締めて36万円。家計には痛い出費だが、一流大学出身の家庭教師の費用3カ月分も含むと言われ、クレジット契約をした。

 数日後、教材が届くと、家庭教師のお姉さんもやってきた。息子は喜々として教材に向かい、楽しそうに勉強しているような声が部屋から聞こえ、彼女もひと安心した。

 ところが1カ月後、息子も飽きたらしく、教材に最初ほど興味を示さない。家庭教師に様子を聞いても、「大丈夫です、そのうちきっと」と繰り返すだけで、技量に不安を抱かざるを得なかった。

 結局1カ月半後、彼女は途中解約することにし、月割りで清算したいと販売会社に連絡した。

 「返金はできません。36万円は教材代ですから一度開封されると返品できないんです」。つれない回答に、彼女は「でも、家庭教師は半分しか来てもらっていませんよ」と家庭教師代くらい取り返せるはずだと食い下がった。「家庭教師はサービス。契約書をご覧ください。料金には含まれていません」

 確かに、契約書の購入商品欄には「教材」と書かれていた。彼女は、だまされたような釈然としない思いでいっぱいだった。

 
 
今からでも契約解除できる

 

 このケースでは、確かに契約書に購入対象は「教材」としか書かれていないかもしれないが、値段やセールストークの内容からみて、社会通念上、教材購入と家庭教師の役務提供が契約内容であると認められる。とすれば、この契約書には当然記載されるべき「家庭教師代」という文句が抜け落ちており、訪問販売の契約時、購入者に渡すべき必要事項の記載された法定書面にはあたらない。

 法定書面の交付がない以上、クーリングオフ期間は進行しておらず、彼女は今からでもクーリングオフに基づく契約解除ができる。契約が解除されると、販売業者は、既に支払いが済んでいる分割金も返さなければならない。教材が使われていても、業者の負担で引き取らなければならない。

 
  筆者:大迫惠美子、籔本亜里