離婚してからもDVが

彼女(40)が彼(43)との「本当の別れ」を考え始めたのは2年前にさかのぼる。

 2人は12年前に結婚したが彼の浮気性と酒癖の悪さ、酔った勢いの暴力が原因で4年前に一度離婚。ただ、当時は彼女に経済力がなく、彼も酒で体を壊していたので、離婚届は出したものの完全な別れには至らず、事実婚の状態がその後も続いてきた。

 彼は夫として「サイテイな男」だったが、仕事人としては頭もキレル優秀な人物だった。一流大学をストレートで通過し、留学を経てコンピューター関係の会 社を起業した。ITがもてはやされる時代、事業をどんどん成長させて鼻高々だった。そんな彼のもとで秘書をしていた縁で、2人は結婚したのだった。

 離婚届を出した後も、同居する彼の暴力的な態度は全く変わらなかった。彼が普通の時間に家に帰ってくることはなかったが、顔を合わせるとささいなことで彼女に大声で突っかかってきた。9歳の息子を抱えて、家を飛び出す力がない自分に対し、彼女は腹だたしさを感じた。

 2年前のある日、昼間から赤ら顔だった彼に注意をしたときだ。「おれのおかげで飯を食っているんだから、文句言うな!」「そんな言い方ないでしょ。昼間からそんなにお酒じゃみっともないわよ」「1人で生きていけないくせに偉そうに。出て行け!」

 今でも忘れないこの瞬間、彼女は胸の奥でずっとモヤモヤしていたものがスーッと消えていくのを感じた。「ここを出ないと自分がダメになる」

 彼女はそれから生活力を身につけるべく、派遣の仕事に精を出し、休日は専門学校に通った。そして今、彼女は家を出る決意を固めた。

 「ちゃんと生活していけるかしら」。不安もあるが、後戻りする気持ちはない。

 
 
精神的行為も規制の対象に

 

 04年からDV(ドメスティックバイオレンス)防止法が改正され、身体への暴力だけでなく「大声で怒鳴る」「無視する」「生活費を渡さない」といった精神的な行為も規制対象となり、離婚した元配偶者も保護の対象となった。「配偶者」には「事実婚」も含まれる。

 子どもの就学や児童手当、国民健康保険などの申請には住民票が必要だが、住民票を移すと加害者に現住所が知られる心配がある。この点、状況次第で住民票 記載の住所以外でも申請が認められ、加害者が判明している場合には加害者に住民票の閲覧請求をさせない支援措置もあるので、市区町村に照会しよう。

 自活できる蓄えを持ち仕事力を身につけることは、配偶者の暴力から逃れる第一歩。家を出るときは各種の支援措置を調べ、準備を整えてから動きたい。

 
  筆者:菱田貴子、籔本亜里