2派の対立で会社が…

彼女(53)は、首都圏の菓子製造会社「源平」の取締役を務めてきた。会社は15年前、夫が大手食品会社を早期退職し、会社の同僚だった清森 (57)と一緒に立ち上げた。資本金は2000万円。取締役は6人で、夫と彼女、夫の弟の義常(49)、清森側の親類3人で占めてきた。株式も夫側と清森 側で50%ずつ分けあい、役員も同数を出すことで「源平」の利益を平等に分配。代表権は夫と清森が握っていた。

 ところが1年半前、夫が突然亡くなった。葬儀が終わった夜、清森は彼女と義常を前に、「亡くなる少し前、会社を私に任せると言って、彼名義の株を譲られたんだ」と明らかなうそを言った。

 翌日から清森は会社の全権を取り仕切り、夫側の人材が就いていた管理職を清森側の人間に入れ替えた。創立以来「源平」は手作りの和菓子を主力としてきたが、以前から清森が主張していたスナック菓子の製造に重点を移すよう指示が出た。

 ところが会社の業績は1年で大幅な赤字に転落。スナック菓子が全く売れなかったためだが、清森側の役員の報酬がいつのまにか大幅に増額されていた事実も露見した。

 今年6月の株主総会で、彼女と義常は反抗を試みた。「代表取締役の行動は勝手すぎる」。義常が第一声を発すると、彼女も加勢した。「人事、商品、役員報酬……何も諮られずに事が進められるのはルール違反よ」

 清森は目を閉じて聞いていたが、しばらくすると目を見開いて言い放った。「今日で2人は取締役解任だ。長年商品を黙って持ち出す不正があったと報告を受けたんでね」。全くのぬれ衣だった。

 会社の財務はその後も悪化し続け、銀行融資の返済も数カ月前から止まったという。

 「何とかあの人たちを追い出せないものか……」。彼女は毎日頭を抱えている。

 
 
損害大きければ解散請求も

 

 このケースで、亡き夫が清森に株を譲渡したことがうそならば、彼女らが亡き夫の株式を相続により取得したことになるので、株主権確認の訴えによってこれを明らかにすべきだろう。

 また、清森派が過半数の株式を有していることを前提にした取締役の解任決議については、取り消しの訴えを提起することができる。

 さらに、2派の対立によって会社の業務執行が著しい難局に直面し、会社に回復できない損害が生じるといった場合には、一定の要件を満たす株主は、会社の解散を命ずる判決を裁判所に請求できる。

 このケースでも、会社が大幅に赤字に転落し、銀行への返済ストップという事態が発生しているので、彼女が解散判決を請求するのも一つの手だろう。

 
  筆者: 本橋美智子、籔本亜里