不倫なんて事実無根よ

彼女(36)はあるデザイン事務所に勤めるキャリアウーマン。1年前、大学の同窓会で、昔つき合っていた彼(36)と再会した。変なわだかまりもなかったので、会話はすぐ、互いの仕事や家族のことへ広がっていった。彼女が自分の作品を見せると、彼は感心して見入っていた。

 「うちのカミさんが近々インテリアコーディネーターとして独立するんだ。ちょうどパンフとか作らなきゃいけないと言っているから、やってくれないか」「いいわ。でも高いわよー。ウフフフ」

 彼女は、独立開業して頑張る女性を応援したいと思ったので引き受けた。数日後、彼の妻と会い、パンフレット、チラシ、名刺、ホームページなどの制作を依頼された。予算は約130万円。デザインのクオリティーや印刷費などを考えれば本来の相場ならもっと高いが、了承した。

 3カ月後、仕事は無事完了した。ところが請求書を送ったところ、彼の妻は「高い」と怒っているという。

 「どうなっているの」と、彼女は彼に尋ねた。「あれこれ手を出して開業予算がオーバーらしい。予定していた大口の仕事も次々にキャンセルになって、参っているんだ」

 しかも彼の妻は、彼女と彼が不倫の関係で、彼をたぶらかして仕事をもらった、とあちこちで言いふらしていた。

 「とんでもない。何もないでしょ。仕事もあなたから頼まれたのよ」「申し訳ない。たしなめているんだが、分別をなくしてしまっていて」

 結局、費用は彼が代わりに払ってくれた。ところが、それが妻の気に入らなかったようだ。事務所に電話をかけてきて、彼女は汚らわしい女だと同僚たちにふれまわる始末。周囲の視線が最近冷ややかになるのを彼女は感じた。

 「事実無根。誠意をもってしたのにあだで返された……」。理不尽なストレスで彼女は疲弊している。

 
 
まず中傷行為をやめさせる

 

 このケースではまず、彼の妻の行為をやめさせなければならない。彼、妻、彼女、場合によっては中立の第三者も入れて話し合い、妻の誤解を解くことだ ろう。本人はちょっとした非難くらいに思っていても、事実もないのに不倫だと言いふらされた彼女が受ける人間関係上の、あるいは精神的なダメージは大き い。

 妻の行為がやまず、エスカレートでもするようなら、彼女は名誉を傷つけられた証拠を集めて名誉棄損罪で警察署などに告訴することも考えられる。名誉棄損罪は、摘示された事実がその人の社会的評価を低下させる事実であれば、(仮に真実であっても)成立しうる。

 また、精神的なダメージについても、程度によって不法行為として慰謝料を請求することもできる。

 
  筆者: 本橋美智子 、籔本亜里