彼女(38)は、東京都内の電気部品製造を請け負う会社の総務部で事務職をしている。部品製造の見積額や実際の製造コストの算出、顧客との連絡が主な仕事
だ。地味な仕事だが、社内でベテランに入る彼女の存在は欠かせない。人より少しでも早く、男性にも負けずにやり遂げることがモットーだった。
そんな彼女の気が合う男友達がノボル(38)だった。同期入社で、何年か営業にいたが、ほとんど彼女と同じ総務で事務職をしてきた。夜、2人で飲みに行っては上司の愚痴を言い、急な仕事で困ったときは助け合ってきた。
ところが数年前の給料支給日の夜、酒ですっかりできあがった彼の胸ポケットから落ちた給与明細を偶然見てしまった彼女はちょっと驚いた。ノボルと彼女の 給料の差が少なくとも7万円はあったからだ。「今月残業多かった?」「いや、君と一緒の仕事をしてたじゃない。同じ稼ぎだろ? 給料上がんないかなあ」
彼女は酔いがさめてしまった。「なぜこんなに差が? 仕事量は同じはずなのに」
その数カ月後、彼女は上司との面談で聞いてみた。「男女間でお給料の差がかなりあるみたいですが」。上司はギョッとしたようだが、「賃金はいろんな要素が加味されて決まるから」と言葉を濁し、会議を理由に席を離れた。
その後、ノボルは管理職試験にパスして昇進した。彼女も昇進を希望したが、試験は上司の推薦が必要で、彼女には声がかからなかった。前例がないのが理由だという。
「なんかおかしいわ。差別されてると思うの」。彼女はノボルに悩みを打ち明けた。「おれ、たまたまだよ。能力は君のほうが上かもね」。彼は心配するなと繰り返した。
後に、ノボルとの賞与の差が30万円あることも知った。「もうノボルにも相談できない。この気持ち、男の人にはわからないわ」。彼女は理不尽な悔しさをどこにぶつけたらいいのかわからなかった。 |
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