婿養子に裏切られた末

  7年前、彼女(65)は一人娘(35)に婿養子を迎えた。娘の将来を考えたのはもちろん、家業の建設会社を継がせ、体の弱ってきた彼女と夫の老後の世話も期待した。夫の知人に紹介された彼(37)は当時薬品会社に勤める営業マンで温和にみえ、話はトントン拍子に進んだ。まもなく彼は会社を退職し、夫の秘書兼運転手として建設業の見習いを始めると同時に娘と結婚、養子縁組も成立した。

  「これで娘も会社も老後も安心ね」と喜んだのもつかの間、1年後、彼は娘と別居した。結婚前につき合っていた女性とよりを戻したという。

  娘から話を聞いた夫は彼を呼びつけ、激怒した。「どういうつもりだ!」「……」「答えられないなら、会社に来なくていい」

  彼は口を開いた。「仕事は続けさせてください。いまは建設の仕事が面白くて、会社をきちんと継ぎたいと強く思っているので」。しかし夫は「娘の気持ちをなんだと思っている! 君とは縁組も解消だ!」と吐き捨てるように言った。彼はその場を立ち去り、以来会社や彼女の家に姿を見せなくなった。

  その後、第三者を介して数回にわたって離縁の手続きに応じるよう求めたが、彼は拒否し続けた。昔の彼女とも、当初と違ってうまくいっていないようだった。離縁の話が出て既に5年が経過した。

  そして、また一大事。心労が重なっていた夫が、心筋梗塞(しんきんこうそく)で急死してしまった。

  その半年後、彼から手紙が来た。「父の遺産から遺留分をいただきたい」という。

  夫は、全財産を彼女に包括遺贈する遺言を残していた。彼がそれを知って遺留分の要求をしてきたのだ。

  「娘を苦しめておきながら、財産も寄こせなんて!」

  彼女は、縁組を性急にしたことを悔いていた。
 
 
破局が長期間なら離縁可能

  遺産相続については、養子の彼には法定相続人として権利があり、遺留分を請求できる。別居は夫婦間の問題で、遺産相続には直接関係ない。

  離縁に関しても夫婦間とは別問題で、母と婿の間に縁組を継続し難い重大な事情があって初めて認められる。親子関係が正常な状態でない期間が相当の長期間に及び、離縁が著しく社会正義に反するといった特段の事情がない場合、認められる余地がある。

  このケースでは離縁の話が出て5年が過ぎ、親子としての往来や音信などがほとんどないこと、両者とも関係の修復に積極的に努めてこなかった状況をみると、養親子関係の破局は深刻に進んでいて回復しがたいとも思われる。当事者間で話し合いがつかなければ調停、それでもまとまらなければ裁判になるが、この5年間の事情によっては離縁は認められる可能性がある。
 
  筆者: 大迫惠美子 、籔本亜里