家賃滞納のとばっちり

  彼女(53)が経営する広告会社は4年前、JR駅近くにスタッフ用の事務所を月50万円で借りた。ところが9カ月前、突然、家賃滞納を理由に立ち退きを請求する通知が届いた。「うちは毎月きちんと払っているのになぜ?」

 そこは、彼女の知人の山田氏が経営する山田エステイトという会社が、鈴木氏という持ち主から月35万円で借りて改装を施し、彼女の会社に転貸していた。 実はその山田氏が半年間も鈴木氏に滞納していた。鈴木氏は滞納を理由に山田氏との賃貸借契約を解約し、同時に彼女の会社にも明け渡しを請求してきたのだ。

 彼女は鈴木氏に抗議した。

 「山田さんの問題なんだから、山田さんに言ってください。転貸は鈴木さんも了解したことじゃないですか」

 しかし、鈴木氏は滞納にこりごりし、契約の清算を望んでいた。「山田さんはついに事務所をたたんで雲隠れだ。転貸は承諾したけど、貸主が逃げるようじゃあね」

 「でも、解約前にこちらにひとことあってもいいのでは? 場合によっては山田さんの立て替え払いだって……」

 こんな言い争いが2カ月続いた後、彼女は姿を現さない山田氏への家賃支払いを停止した。そして4カ月後、これ以上トラブルを引きずるのはよくないと判断 した彼女は、鈴木氏の言い分をのんで家賃の損害を支払い、代わりに鈴木氏と直接契約し、改めてオフィスを借りることにした。

 ようやくオフィスに落ち着きが戻ってホッとした3カ月後、山田氏から「家賃が振り込まれていません。至急お支払いください」との手紙が来た。驚いて差出人の住所を訪ねると、山田氏がいた。

 「鈴木さんと直接契約を結ぶまでは、うちとあなたの間の契約は継続していたんで、お支払いのない4カ月分をいただきたいんですよ」

 「バカな! うちはおたくの滞納分も払ったのよ。こっちが払ってほしいわ!」。彼女は山田氏をにらみつけた。
 
 
転貸借終了し払う必要ない

  賃貸人の鈴木氏は、賃借人(転貸人)の山田氏が家賃を半年滞納したので、山田氏との契約を解約できる。

 転貸借はもとの賃貸借契約の基礎の上にあるので、賃貸借契約が解約される場合、解約前に転借人である彼女に対して家賃の立て替え払いをするかどうか、確認する必要はない。

 一方、彼女が山田氏への支払いを停止した時は、鈴木氏が山田氏との賃貸借契約を解約してオフィスの明け渡しを請求した後である。すなわち、この時、山田 氏はもはやオフィスを転貸できなくなっており、彼女との転貸借関係も終了していた。転貸借が終了していた以上、彼女は山田氏が請求してきた4カ月分の転借 料を支払う必要はない。
 
  筆者: 本橋美智子 、籔本亜里