<彼女の場合>一緒に別荘買ったのに

 5年前、彼女(46)は大学時代の友人の太郎(47)、次郎(46)と一緒に信州に小さなリゾートマンションを買った。金融業界でバリバリにコンサルタントの仕事をしてきた彼女は、独身で40歳の誕生日を迎えたとき、ふと、年に1回でも気持ちをゆったりできる場所が欲しいと思った。そんなとき、「手頃な物件があるから一緒に買わないか」と、商社勤めの太郎夫婦に誘われた。広告会社に勤める独身の次郎も「おれはカノジョと使おうかなぁ。毎年、ちがうカノジョと来るのもいい」と、仲間に加わった。

  価格は900万円。太郎が350万円、次郎が300万円、彼女が250万円を出して共有名義にした。近くに温泉やスキー場があり、緑豊かで避暑にもよかった。

  ところが、最初の3年間こそ3人とも1年を通してよく使ったものの、ここ2年は様子が変わった。まず太郎が海外転勤になり、利用できなくなった。彼女も、転職先の仕事が忙しくなって、信州に足を運ぶ余裕が全くなかった。

  去年の暮れ、やっと休みが取れた彼女がマンションに行くと、そこには見知らぬ女性が自宅同然に暮らしていた。次郎のカノジョだという。

  「彼が自由に使っていいって。ここ、彼のものじゃないの?」。とぼけた調子で答えたカノジョは20歳代半ばに見えた。次郎は月に2回東京から遊びにやって来るという。

  あっけにとられた彼女は、さっそく次郎に電話をして問いただした。「2人とも使ってないからいいかと思って。掃除もしてもらえるし」。受話器の向こうで、次郎が悪びれる様子もなく言った。

  「私たちに何の断りもなくおかしいわ。今すぐ出て行ってもらって!」

  彼女の退去要求に、次郎は「ちょっと待ってくれよ」を連発するばかりだった。
 
 
占有が続くなら損害賠償も

 マンション一室を共有した場合、共有者は、持ち分が3分の1だからスペースの3分の1しか使えないわけではなく、一室全部を使うことができる。このケースでも、次郎の承認を得たカノジョは次郎の持ち分の限度で一室全部を使えるので、明け渡し請求は認められない。

  とはいえ次郎のカノジョは住居同然に一室を占有して暮らしており、彼女の持ち分に応じた占有使用を故意または過失により妨げた場合、不法行為による損害賠償の請求はできる。

  次郎に対しても、共有持ち分権に基づく使用を妨害されたと認められるなら、やはり不法行為にもとづく損害賠償を請求しうる。次郎が太郎や彼女の持ち分を侵害してカノジョから使用対価として賃料を得ているなら、持ち分の範囲内でその利益の返還も請求できるだろう。
 
  筆者:本橋美智子、籔本亜里