子どもが欲しくて結婚退職してから7年。なかなか恵まれず、じっとしていられなくなった彼女(38)は、10カ月前から派遣で働くことにし、中堅の外食産業の支社でパソコンの入力業務に就いた。
職場は課長1人と社員14人が出入りする営業課で、1日8時間、販売計画や営業報告などの書類を作成する毎日が続いた。ところが半年を過ぎたころ、男性社員からコピーやお茶出し、客の迎えなど細々したことを頼まれることが増えてきた。総務担当の2人の女性社員が同時に退職したためでもあった。
最初は気安く受けたものの、雑用は増える一方。彼女は一定時間集中して仕事をやる性分なので、雑用で頻繁にOA業務を中断させられてしまうのに悩んだ。そこで、彼女は課長に相談した。
「大事な仕事だとは思いますが、派遣の就業条件と違いすぎるので……」
「そうだな、悪かった。みんなにも周知しておくよ」
人のよさそうな課長はそう言うと、一度は課の全員に、彼女に雑用をさせないように注意した。しかし、それが守られたのも1週間。男性社員たちはいかにも忙しそうな様子をしながら、彼女に用事を頼んできた。
派遣の条件では、原則として残業はないはずだった。しかし人手不足は明らかで、現実には1時間、2時間と徐々に残業が恒常化してきた。課全体に厳しい営業ノルマが課され、達成できないと給料に直に響くシステムになっているらしく、彼女の就業条件に気配りする余裕が、男たちにはなかった。
そんな時、これまで相談相手だった課長が転職してしまい、代わって「女嫌い」で有名な人物が営業課長としてやってきた。
新課長は彼女とまともに言葉を交わそうとしない。部下全員が外に出払って2人きりになっても彼女はほとんど無視され、たまにコピーなどを頼むときに、「おい、おい。これやってくれ」と言うだけ。彼女の就業状況など全く気にかけていなかった。
それでもうれしい出来事があった。待望の妊娠が判明したのだ。彼女は妊娠の報告とともに就業状況の改善を課長に申し出た。
「妊娠? いつ辞めるんだ?」
課長が平然と返した言葉に彼女は言葉を失った。この数カ月、ジッと抑えこんできた理不尽な思いがはちきれて涙がこぼれた。 |
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