養育費の支払い止まる

 なんで私だけが苦労しなくちゃいけないの。彼だって親じゃない。勝手に再婚して、一方的に支払いを止めるなんてあんまりだわ――。彼女(30)は、入金のない預金通帳を握りしめた。

  離婚したのは4年前。見合い結婚した会社員の夫から、価値観が違いすぎると離婚を切り出された。彼女は、思いつきで会社をやりたいと言い出したり、何事につけ実母に相談したりするような夫に強い不安を感じていたこともあり、最終的には離婚に応じた。当時2歳の長女を引き取り、実家の助けを借りながら、デパートの食品売り場で販売員として働き始めた。

  離婚の際に夫は、周囲に説得されて100万円の解決金と毎月5万円ずつの養育費を支払うことを約束し、簡単な文書を交わした。離婚届と引き換えにもらった100万円で、彼女は実家の近くに狭いアパートを借りた。その後何度か養育費の支払いが滞ることはあっても、せいぜい2、3カ月だった。

  ところが今回は、支払いが止まってもう6カ月になる。振込先になっている口座を何度も確認しに行ったが、入金はない。これまで元夫の声を聞くのも嫌だったので、話をすることを避けてきたが、意を決して電話をかけた。が、「おかけになった電話番号は現在使われておりません」の音声がむなしく響くばかり。

  あわてて元夫の実家に電話をすると元の義母が出た。彼が半年前に再婚したこと、会社を辞めて小さな広告会社を始めたがうまくいっていないことなどを教えられ、養育費のことはもう勘弁してやって欲しい、とまで言われた。冗談じゃないと憤りを感じつつも、頼み込んでやっと現在の自宅の住所と電話番号を聞き出した。

  早速電話をすると、いまの妻とおぼしき女性が出た。彼女が名乗るなり、すごい剣幕で「養育費のことですか。支払いはできません。私は彼に離婚歴があったなんて知らなかったんですよ。もうすぐ子どもも生まれるので、あなたに支払うようなお金は一銭もありません。もう連絡してこないでください」と一方的にまくし立てられた。

  彼女は途方に暮れた。こんな状況で、どうやって約束を守らせることができるのだろう。また電話をかけるにしても、あの女性が電話口に出てきたら、と考えただけでも胃が痛い。しかし、来年小学校入学を控えた娘のことを考えるとふびんでならない。
 
 
離婚時に強制執行の認諾を

 養育費の支払いが続いている割合は、現実にはとても低く、支払いが滞ると、約束を守らせることは難しい。このケースでは、元夫と直接交渉するか、家庭裁判所に調停を申し立てるしかないだろう。

  彼女が元夫と交わした文書は、約束があったことの証拠にはなっても、強制執行はできない。離婚に際する合意の中に、養育費のように将来履行されるものがある場合は、面倒でも、強制執行認諾約款を入れた公正証書を作成するか、家庭裁判所で調停調書を作成する、といった方法をとっておきたい。

  ただ、強制執行をしようにも、相手の住所や、給料や預貯金口座など、差し押さえるべき財産がわからないのではどうしようもない。離婚後は相手との関係をできるだけ絶ちたくなるが、感情は別として、子どもの、そして何より自分のために、親として冷静に対応するよう心がけたい。折をみて子どもの写真を添えて近況を知らせる手紙を送るとか、養育費について感謝の気持ちを伝え続けるなど、親としての自覚を失わせず、相手の状況を把握する努力を怠らないことが大切だ。
 
  筆者:菱田貴子、籔本亜里